02


「ただいま」

「随分と遅かったな」

「ははは、ちょっとな。まあ任務頑張るしそれで許せよ?」

「全く、仕方がないやつだ」



雇われている身であってもこの態度でいられるのは雇い主が寛大だかはなのか、男自体の何かがそうさせるのか。
一歩間違えれば首斬りにだってなるようなことなのに全く臆することがない。

だからこそ、雇い主である佐竹義重は男のことを気に入っていた。



「では本題に入る」



苦笑を浮かべていた顔つきが真剣になり、その場の空気も緊迫したものとなる。

男も、それなりに真剣な顔で義重の言葉を待った。



「奥州に行き、伊達軍がどれ程の戦力を有しているかを調べてきてくれ」

「んん?いつにも増して簡単な任務だなァ」



排除とかなら楽しいのにと文句を言う男に義重はため息をつく。



「遅れた分だけ多くの情報を頼むぞ」

「はいはい。あ、そうだ佐竹。言っときたいことがあんだけど」



襖に手をかけたところで思い出したように振り向く。

つくづく忍らしくない男だ、と義重が考えてしまうほどに見た目は隙だらけ。



「忍らしくない、だろ?お前らみたいな奴の考えてることはだいたいわかる」

「すまなかたったな」

「くくくっ…。ああ、それよりも話だ」



いつも通り、お決まりの台詞。
雇い主と、その軍と、縁を断ち切る言葉。



「これが最後の任務だ。契約が、この任務が終了と同時に切れる」

「…そうか。だがもともと俺が設定した期間だ。また会う時にはお前と敵かもしれないということだな」



何とも言えない表情の義重を見て口元をゆるりと上げて男は問う。



「残念か?佐竹」



その言葉に苦笑して、男の目を見据えながら義重は口を開いた。



「俺はお前を気に入っていてな。また会えることを楽しみにしている、夜幸」



小さな笑みを残して、男は……いや、夜幸は闇の向こうへと消えた。









男は笑いながら月夜を往く






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