那月の幼馴染み







音也達とサッカーをした帰り、男子寮の何処かからガタン!やらドゴォン!だの大きな音が響いていた。





「工事…なわけないよな。喧嘩か?」





他の生徒も何の騒ぎだと部屋から出てきている様で、まぁ何にせよ巻き込まれる前に部屋に戻っちまおうと早足で自分の部屋に向かったのだが、その音は徐々に大きくなっていった。






「…マジかよ」






俺は部屋のドアの前で立ち尽くす。






信じたくもないが、その騒音元は俺の部屋からであることが嫌でも理解出来た。






ガチャッ






「那月!お前、何暴れて…………『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!』







!?







バタン







幻覚だろうか。




今、女が雄叫びをあげながら那月を思いきり押し倒しているように見えた。






那月の彼女か?




なら俺、邪魔だったよな。




……って待てよ。ってかそもそもこの学校、恋愛禁止じゃんか。






『大人しくしろぉおおおおおお!!!!!』


「んなわけあるかよ!」




恋人に向かってうぉぉおだの大人しくしろだの言ってる女なんて見たことねーよ!!

突っ込みと共に俺は再びドアを開けた。

危険に陥っている家来を助けるのも王子の役目ってな!





「無事か那月!今俺様が助け…って砂月!?」






よく見ると那月の眼鏡は外れていて、ソレは俺の足元に落ちていた。





「離せ名無し!」


『あんたが眼鏡掛けたら離すっつーの!』






やっと俺の存在に気付いたのか、名無しと呼ばれた女は、砂月を押し倒したまま顔だけを俺の方へと向けた。




あの砂月を押さえ込むくらいだ、どんな怪力女かと思ったが、上げた顔はめちゃくちゃ可愛かった。

怪力以前にむしろ華奢な身体。砂月を押さえ込む力は、その細い腕の何処からわき出てるんだ。




っていやいやそんなこと思ってる場合じゃねーし!!





『翔ちゃん!見てないでそこ!そこに落ちてる眼鏡拾ってさっちゃんにかけて!』

「なっお前、何で俺の名前…」

『いいから!私が押さえてる間に早く!』



「あ、ああ!!」




話は後だ。
俺は床に落ちた眼鏡を拾い上げて、




「戻れ那月ー!」




砂月に眼鏡をかけた。






「…………」

『…………』

「…………」






「あれ〜?
今日の名無しは甘えたさんですねぇ?ぎゅ〜っ!」


『うわっ!?』





ほっとしたのも束の間、元に戻った那月は、いつものあのテンションでその体制を逆転させた。






『…助かったよ、翔ちゃん。ありがとうね』


「お…おう…」





那月に押し倒されたまま、彼女はそう言った。






―――――――――
―――――――
―――――





落ち着いてから聞いた話だが、名無しと那月は恋人じゃなくて、ただの幼馴染みらしい。




ただの幼馴染みが押し倒したり抱き合ったりするは理解できねーが、那月だしな、うん。




あの時、俺を゛翔ちゃん゛と呼んだのも那月から俺の事を色々聞いていたから知っていたとか。何を話しているのかは知んねーけど。





逆に俺は那月に幼馴染みがいるなんて今の今まで全然知らなかった。

っつーか、砂月と互角にやりあうとかすげー…。

ひょっとして俺より力があるんじゃ………いやいやいやいや。





帰り際、

「苦労してんだな、お前も」

そう言えば、

「んーまぁたまに収拾かなくなる時もあるけど、なっちゃんもさっちゃんも私の大事な幼馴染みだからね」

なんて言葉がかえってくるもんだから、思わず俺は言葉を失った。






『翔ちゃん!』

「ん?」





『なっちゃんのこと宜しくね』




「お、おう。
今回みたいのはゴメンだけど…また遊びに来いよ」

『あはは、ありがとう』





―――――翔ちゃん。





そう言って名無しは笑った。










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砂月と取組み合いの喧嘩がしたかったっていうお話。

20120924.haruka

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