幸せを願うよ






「名無し、元気、ない?」




アスベルが取込中の様だったので、ラント領主邸前の花壇でクロソフィの花を見つめていると後ろから聞きなれた優しい声が聞こえた。




『…え?元気だよ?』


「うそ。だってアスベルが名無しが元気のない時はしゃがんで俯くって言ってた」




だから、とソフィは疑うかのように目を細めた。




『…………………』




今のまんまの状態じゃないかコレ。


…っていうかアスベルはソフィに何を教えこんでるんだよ。





「元気のない名無しは私みたくないよ…」

『ソフィ…』




そう言ってソフィは私の頭を撫でてくれた。




クロソフィの花を見ていたのは本当。


でも、落ち込んでいたのも本当。


ソフィがアスベルの側に居るせいだろうか。



ソフィに撫でられるとアスベルに撫でられているようなそんな気持ちになる。






『…きっと、おめでとうって言えない』



「どういうこと…?」




『私、アスベルが誰かと結婚しちゃうなんて嫌だなって…思っちゃってさ』





ラントに住んでいれば嫌でも伝わってくる領主の見合い話。

これはラントだけに限らず、リチャードやヒューバートからも聞いているのだから間違いない。




『一番に喜んで幸せを願ってあげなきゃならないのは私達なのにね』

「名無し…」





まだ18歳だなんて思っていた。


けれどアスベルは領主。

跡継ぎのことを考えて行くのは当然だ。




「名無し、泣かないで」

『うう〜…』


「あ」



ソフィにこんなこと言って困らせて、しまいには泣いて…あぁ全くもって情けない。


私の視線は相変わらず地面を向いていて、涙を拭った後に目を開けるとそこにはソフィと、ソフィではないもう一人の足があった。




その足は誰のかっていうのは決まってて。




『うっそ……』




いや、待って、私はさっき何を口走った。




顔があげられない。






「名無し、顔をあげてくれないか」

『アアアアスベル!いつからそこに…!いや、無理、そっとしておいて!』




なんとも間抜けな光景。

今、アスベルの顔なんてとてもじゃないけど見れない。




「いいから」

『うああっ』




こういう時、アスベルは意外と容赦がない。

私の腕とおでこが密着する部分に自分の手を入れてグイッと上へと引っ張りあげた。



思いきりアスベルと顔が合わさる。




「俺の見合い話、聞いてたんだな」

『うん。ラントじゃ有名』

「そっそっか」




アスベルは少し恥ずかしそうに私から視線を反らした。




「あのさ、名無しは…どう、なんだ?」

『…何が?』




「…自分を…その、自分を選択肢には入れてくれないのか」

『言ってる意味がわかんないんだけど』




「だから!名無しは俺の所に嫁ぐ気はないのかと聞いているんだ!!」





突然の理解し難いアスベルの発言に私が瞬きを忘れていると、今度は急にアスベルが顔を伏せた。



『アスベル?』

「あ、いや、その…」



何か考えた動きを見せた後、アスベルの顔が上がるのと同時に私の両肩にアスベルの両手が強く乗せられた。



「名無しっ!」
『はいっ!』



つられて元気な返事を返す。

そして、再びぶつかりあう視線。




「オレは一生を共にする人を考えて真っ先に浮かんだのは名無し、お前だ」






「お前しか考えられない」

『アスベル…』




「だから…これからも俺と共にあって欲しい」




『〜〜〜勿論っ!』

「うわっ!?」




私は思いきりアスベルに飛び付いた。

予想をしていなかったアスベルはバランスを崩してそのまま二人で庭に倒れ込んだ。




「ははは、やっと笑った」




『アスベル、好き!大好き!』





「あぁ、俺もだ。あ、いや―――」







――――愛してる、と囁いた。













「名無しとアスベルの一番の笑顔はね、二人で一緒に居る時なんだよ」










ね、クロソフィ。










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ソフィちゃんマジ天使。

20120415.haruka

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