かお出さぬ芽




ベラニックに向かう道中、慣れない寒さに思わず声が漏れた。


『さ、寒い…』


両手を使って自分を抱き締めるようにして、せめて風が吹くのくらいやめてくれないかな…、なんて呟くと、隣に居たヒューバートが物凄い睨みを効かせてきた。


「寒いと思っているから寒いんですよ」


…昔のあの可愛さは何処にいったんだと言い返してやりたいけれど、あまりの寒さにそれは叶わなかった。


『ああ…誰かさんは冷たいし…私の身体も冷たい…』

「なんなんですかあなたは!」

「名無し、そんなに寒いのか?」


わなわなと拳を震わせるヒューバートの一歩前を行くスベルが声を掛けてくれた。


『うん…アスベル…温めて…』

「ああ、わかった」


「なっっ!?」


誰よりも一番に驚いたのはシェリア。

けれど、その後、アスベルのとった行動は名無しの手を引くということだった。


「…ん?どうした、シェリア」

「え、あ、ごめんなさい、何でもないわ」


思いの外大きな声が出てしまったようだ。アスベルのとった行動による名無しの反応も薄く、゛温めて゛という発言に異常なまでに反応をしてしまった自分が少しだけ恥ずかしくも思う。

自分もアスベルに好意を寄せているのだから余計に。


「名無し、もう少しの我慢だ」

「アスベル…なんだか嬉しそう…」


アスベルの隣を歩いていたソフィは、久し振りに見る幸せそうなアスベルの表情を見た。


「あぁ、昔を思い出すんだよ」

「むかし?」

『そうそう、アスベルと私って昔よく手繋いでたんだよねー』

「そうなんだ、私も…私も名無しと手、繋ぎたい」

『よし、じゃあソフィはこっち』

「うん」


いそいそと私の隣へと移動してきたソフィに空いている方の手を差し出せば、これまた幸せそうな笑顔で私の手をぎゅっと握ってくれた。


「名無し、あたたかい?寒くない?」

『うん、すごく温かいよ』


「っあー!ずるい!私も名無しと手繋ぎたい!」


そう叫んだパスカルは、私の両手が既に塞がっているのを確認すると、後ろから飛び付いてきた。
『う、ちょ、無理!パスカルー!』
「えー?あたしをおぶって進んでたらそのうち温かくなるってー!」

『パスカル背負ってベラニックまでとかどんな罰ゲーム!?ヒューバートォォオ!パスカルを剥がしてー!』

「なっなんで僕にふるんですか!?」

『近くにヒューバートが居るからだよ!』




賑やかな一行から少し離れていたシェリアに気付いたマリクはそんな彼女に声を掛けた。


「シェリア。大丈夫か?」

「はい…」


心配したのは、寒さか、心か。

シェリアの気持ちもわかっているマリクは少し複雑な気持ちだった。


「正々堂々と出来たら楽なんですけど…」

「…というと?」

「名無しとアスベルが互いに全く無意識なのでどうにも出来ないんです…!」

「…これはこれで不憫だな」




(魔物現れたら手離してね)
(あたりまえだろう!)
(で、魔物倒したらまた手繋いでね)
(ああ、わかってる!)


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アスベルとソフィの純粋さに時々浄化されそうになります。

20120227.haruka

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