いつか君花となれ

!若かりし頃(劇場版設定一部捏造)





『赴任先が決まった次の日に行くだなんて急な話なのね』





「そんなものだよ。あ、それはこっちに入れておいて」


『わかった』




僕の部屋で荷造りの手伝いをしてくれているのは幼馴染みの名無し。

今日、騎士団での僕の赴任先が"シゾンタニア"という土地であると伝えられたと思いきや、発つのは明日。



そんな訳で名無しに手伝いを頼んだのだ。



…まぁ、荷造りと言ってもそんなに持って行く物もないので、【ひと区切りの大掃除】と言った方が正しいのかもしれない。





『ねぇ、シゾンタニアって何処にあるの?近い?』






名無しは手をテキパキ動かしながら口を開くのに対し、僕はここでピタリと手を止めた。






「恐らくだけど馬を走らせても3日は掛かるんじゃないかな」


『ふーん』




変わらず、僕の手は止まったままだ。



決して手を抜いている訳ではない。

そうなるのにはちゃんとした理由があって、先程から嫌な予感しかしないのだ。






「…間違ってもシゾンタニアに来たりしないでよ」





『わかってるよ、さすがに馬で3日なんて聞かされたら無理ね』





別の意味でお互いの溜め息が重なった。






「場所によっては来るつもりだったんだね…」





名無しは、僕とユーリが居るのだから当たり前だと言うので、僕はさらに大きな溜め息をついた。





『そういえば、ユーリには会ってきたの?』




「え、会わないよ?」
『え、会わないの?』




「『…………』」





お互い真顔でのやりとりとこの沈黙。

赴任先が同じになったもうひとりの僕の幼馴染み。


言ってしまえば"幼馴染み"という理由だからかもしれないが、会う理由が思い付かないのだ。


それに、





「ユーリとは嫌でもこれから一緒だから」



『そっか』






名無しが言わんとしていることはわからなくもないのだが、今僕が言ったのも本音。

これからユーリとはしばらく共にするんだ。

わざわざ事前に会う必要なんて無いだろう。




『シゾンタニア、仕事が無いくらい平和な場所だったらいいのにね』



「そうじゃないんだろうけどね」


『言っただけだって』




名無しの言う通り、平和にこしたことはないのだけれど、そうじゃないからこそ僕等、騎士団が必要なんだ。

まだ経験のない僕に出来ることなんて数少ないのだろうけれど。






『怪我して帰って来るとか絶対嫌だからね』


「はは、名無しは心配性だな」


『人が本気で心配してるのに!』







「うん、知ってるよ」






わかってる。

それは昔から、
自分よりも他人の心配をする僕の幼馴染み。

名無しは昔からそうなんだ。






『フレン?』



「ありがとう、名無し」




『わっ』





頭を撫でてやると名無しは少しだけ顔を赤らめた。


そんな名無しを素直に可愛いと思う。





心から愛しく思う。







「名無し」







それじゃあね、

いいや、違う、

またなも違う、



ああ、そっか。






「いってきます」








名無しは嬉しそうに、けれど何処か寂しそうに笑ったのだ。


















「いってらっしゃい」









君の隣が僕の帰る場所であるといい。




帰った時には真っ先に君に会いに行くから。





それまで、




いってきます。



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20120503.haruka

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