君に伝えるよ
!エイプリルフール
久しぶりの非番は、名無しと共に家で過ごしていた。
窓から差し込む陽はぽかぽかと温かく、そこからは春の訪れが感じられる。
『フレン』
「なんだい?」
『私、妊娠したかも』
ガッッ!
「いっだっ痛っっ!」
゛いつ、誰と゛
一切言いたかった言葉にはならず、ただの痛々しい音となって消えた。
『…嘘なんだけどね』
今日はエイプリルフールだから、と名無しは言う。
なんの脈絡もなしに言われたその言葉に僕は動揺を隠せず、机に足を思いきりぶつけたのだ。
「エイプリルフールって…勘弁して欲しいものだよ…」
もっとマシな他の嘘があったのではないかと思う。
『いや、折角だしね。でもお腹痛いのは本当』
そう言って僕の向かいに座る名無しはテーブルに右頬をくつける体制を取った。
笑ってはいるものの、これは結構我慢している様子に違いない。
「なら薬でも飲んで寝ているべきだよ」
『うーん、でも折角フレンと過ごせる休日だよ?無駄にしたくないじゃん』
さらりと嬉しい事を言ってくれる名無しから僕は思わず目を反らした。
「そ、そうか…」
『そうそう』
「………………」
僕達二人にユーリを加えて【下町の幼馴染み】、関係を表すならばこれだろう。
けれど僕はある時から、名無しに一方的な想いを寄せていた。
自覚したのは10を越えた時くらいだろうか。
それは、どうしようもないことがきっかけで。
ユーリと名無しが二人だけで楽しそうに笑っているのを見た。
――ただ、それだけ。
それだけで自覚が出来るんだという事と、自分の嫉妬深さに自分自身が驚いたことは今でも覚えている。
それからずるずると10年程。思い返せば随分と月日は流れたものだ。
「名無し」
あぁ、そういえば今日は何を言っても許される日、なんだっけ。
「突然のことで君を困らせてしまうかもしれないけれど」
普段とすこし違う僕の声調子に違和感を覚えたのか、名無しは上体を起こして僕に目線を合わせた。
「僕が何よりも大切だと思っているのは君なんだ。名無しが好きだよ」
『……なっ!えっ!は!?』
すると今度は名無しが異常なまでの驚き方を僕に見せる。
「エイプリルフール」
『だ……っ騙された!』
「折角だから僕も、ね」
『うわああああ何かしてやられた感じ!』
「仕返しだよ」
けれど、名無しの頬がほんのり紅に染まっているのは僕の思い違いじゃないだろう。
ただ、この機会を利用して言った僕も卑怯だったのかもしれない。
だから
また改めて
君に伝えるよ
(さて、それじゃ一緒に昼寝でもしようか)
(はい!?)
(君と一緒に居れて君が休める方法)
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先走りエイプリルフール。
フレンとテーブル越しで向かい合ったら確実に鼻血吹く。
この時単純に私の腹が痛かった(^q^)←
20120328.haruka
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[mokuji]
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