イベリスター





『あああああああああああもう!』

「名無し、静かにしてくれないか」



僕の部屋の窓から勝手に入ってベッドに寝転ぶなり、名無しは叫び声を上げた。


名無しが日々僕の部屋を行き来している事を知る者が居たとしても、せめて静かにはして欲しい所だ。



「最近随分と荒々しいけど何かあったのかい?もしかしてユーリと喧嘩?」



やっと起き上がってベッドに座り直した名無しは、ユーリは全く無関係だと言う。
……小さい頃は日常茶飯事だったのに。


次に名無しは恨めしそうに僕を見た。
いや、睨んだと言う方が正しい。
もしかすると今回の原因は僕にあるのかもしれない。



『ね、何でそんなにフレンは優しいの?王子様なの?一体なんなの?』


「今一切優しさを見せたつもりはないんだけど、君は僕を誉めてるの?それとも貶してる?」



『…誉めてる?』

「ありがとう?」



何が言いたいのかいまいちわからなかった僕は机に向きなおして書類に目を戻すと名無しが溜め息をついた後に再び口を開いた。



『フレンの事が大好きな貴族のお嬢様達と一悶着ありました』

「僕の?」



貴族のお嬢様と言われても心当たりが一切ない。



『そ。あんたみたいな下町育ちの女が何でフレン様と一緒に居るのか、だってさ』

「え、」



名無しがここ最近荒々しいことと、目に余る程の掠り傷を作ってくることの辻褄が合った気がして思わず僕は立ち上がった。



『私はフレンと一緒に居たいから居るんだよ、何でかって好きだからに決まってるじゃん!下町育ちの女は自分の気持ちに正直なんだっつーの!』



始めは名無しを落ち着かせようとするつもりだったが、勢い良く話すものだから入る隙もなく思わず聞き入ってしまった。



「…って言ったの?」

『うん。ダメだった?』



どんなもんだ、と言わんばかりの名無しのしてやったり顔に思わず僕は吹き出した。



「いや、ダメじゃないよ」



そして

どうしようもなく

愛しくて。



『…フレンさん。あの、動けないんですけど…』



そんな自分の気持ちに正直でまっすぐな彼女を抱き締めた。



「なんだか急に抱き締めたくなった」


『そ、そう…。フレンからっていうのが珍しくてなんか…こう…恥ずかしい…!』


「何を今更。それから僕は名無し一筋だからね」


『うん、それは、知ってる』


「そっか」






「名無し、目を閉じて」






そうして僕は彼女に口付けをひとつ落とした。





(婚約者とでも宣言しておいたらよかったのに)
(…うん?え?はい?)


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親しいからこその冷たいフレンも好きだけどやっぱり優しいフレンが好き!

20120328.haruka

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