02.ローウェル姉弟
「せっ青年!居る!?」
おっさんが物凄い形相で宿屋の部屋のドアを開けた。
なんだよ騒がしいな、
そう答えるとおっさんはオレの姿を見るなり心底安心しきったような雰囲気を漂わせた。
「ねぇ青年、さっきまで何してた?」
「何って見ての通り武器の手入れだけど」
「…だよね、青年が女装するわけないよね」
ちょっと待て。
今、オレが何をすると言ったのか、このおっさんは。
「…おっさん。
オレ、今丁度この切れ味を試したかったんだよ」
「ぎゃあああああゴメンゴメン!お願いだからソレをこっちに向けないで!」
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詳しく聞けば、ノール港の街中で、オレとよく似た女に会ったらしい。
「まずあの屋敷側に向かう人なんてそう居ないじゃない?
しかもその子、「ユーリの知り合い?」だなんて聞いてくるわけよ」
「オレの名前を知ってたのか?」
「確実に゛ユーリ゛って言ってたね。だからおっさんは女装した青年が唐突な嘘を付いたんだと判断したわけよ」
「…………」
そこで何故オレが女装をするに至るのかは理解し難いが、オレに似ているかつ名前を知っている人物には心当たりがあった。
「青年、何処行くの?」
「ちょっとな」
ガチャッ
『すみませーん!』
オレが部屋のドアを押したのと、ソイツが宿屋のドアを押したのはほぼ同時。
「げっ…なんで居るんだよ」
「青年!この子この子!」
『あぁ、さっきの。
なんでって海を渡る為よ。…それより!』
そいつは、おっさんに一瞬目をやった後、スタスタとオレのすぐ目の前に来るなり手を伸ばした。
パシンッ
オレの額で思いきり音が鳴った後、ヒラリと何かが床に落ちる。
「あ、オレの手配書」
『指名手配?
心配して下町に行ってみたらユーリは居ないし!あんたは一体何やってんの!?』
「違ぇよ!これは成り行きだ!」
『金額は最初見た時よりも上がってるし、最近じゃユーリと勘違いされて私まで斬りかかられる始末だよ!』
「オレだって好きで似たわけじゃねーよ!」
『その口の聞き方何!?』
「たいした年も変わんねぇのに敬えって方が無理な話だな」
『相変わらず憎たらしい!ってか胸元だらしないっての!この露出狂!』
オレの胸元を締めるかの様に片方の襟を掴んで上にあげた。
「そのまま返すぜその言葉。んな胸元見せられても全然嬉しかねーんだよ」
そしてオレも容赦なく名無しの胸ぐらを掴み上げたい所だが、胸ぐらを掴み上げるには服の布が足りていないので両頬をつねる。
するとすぐに胸元が解放されると共にパシンと振り払われた。
『ユーリには関係ない!こっちの方が色々と得することがあるんだっての!』
「危険な目にあっても知らねぇからな」
『ご心配なく!だって私強いもん!』
「喧嘩してんだか心配し合ってんだかわからん姉弟だわね」
外野から聞こえた声に思わずその声の主を睨みつけた。
「心配なんかしてねぇよ!」
「心配なんかしてないわよ!」
「あぁそう…それは失礼したね」
ガチャッ
「ただい…っぎゃー!ユーリが二人ぃぃぃいい!!!」
「カロル…」
宿屋に戻って来たカロルは、案の定オレが二人居ると騒ぎ出す。
とりあえずエステルが一緒に居なかったことにホッとした。
カロルとエステルの両方はさすがのオレも対応出来ないからだ。
『よ、カロル。おまえ、そのヘアスタイルすげーな』
「っぎゃぁぁああ!?しゃべったー!」
『あたり前だろ。それよりおまえむぐ……っっっっ!』
オレの声を真似した名無しの口を力任せに塞いだ。
自分で言うのもなんだが、今のは似ていた。
「やめろ名無し!これ以上話をややこしくするな!」
『なによー折角面白くなってきたってのにー!』
「全っ然面白くねぇよ!」
名無しとユーリが言い争う一方でレイヴンはこっそりと今にも泡をふきそうな少年の元へと近づいた。
「少年、落ち着いてよく見てみなさい」
「へ?」
「あれ、ローウェル姉弟」
「え…ユーリに姉弟なんていたんだ…」
「おわかり?」
ここに来て全てを理解した少年は、呆れた目で呟いた。
「うん……けど、ボクにはユーリとユーリが喧嘩してるようにしか見えない…」
「あ…おっさんも今それ言おうと思った」
ローウェル姉弟
(ユーリのあんな姿初めてみたなぁ…)
(まぁそれだけ青年が日々気ぃ張ってるってことっしょ。たまには良いんじゃない、こういうのも)
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