01.秘密と確信





『こんな所に先客なんて珍しい』

「あなた…」


バウルと会話をした後、ノール港屋敷すぐ前の橋の辺で佇んでいると、普段を共に過ごす見慣れた姿が近づいた。


『ん?』


否、違う。

今目の前に居る人物は、自分の知る者ではない。



似ているが、本人ではないのは確か。



「ごめんなさい。人違いだったみたい」


『…いやいや!
こんな綺麗なクリティアのお姉さんに一度会ったら忘れるはずがないからね』


「お上手なのね」



仲間である彼、ユーリと同様に長髪で紫の瞳を持つその女性は再び私に問うた。



『でもどうしてこんな所に?この奥にはたいしたものなんてないはずだけど』


「内緒で友達と会っていたの。そういうあなたは?」


『私は単純にここの景色と風が好きだから』


「そう、私も割と好きかもしれないわ」



嘘は言っていない。

バウルとも話していたし、この景色も嫌いではないのだ。

この景色が好きと言ったからだろうか、途端彼女はとても嬉しそうな笑顔を浮かべた。




『君は…って、あ、名前は!?私は名無し!』


「名無し、ね、覚えたわ。私はジュディスよ」




『へージュディスかぁ…ジュディのが言いやすいわね』



「あら」




彼女の言葉に思わず目を見開いてしまう。

それを見逃さなかった彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべたのだ。



『ダメだった?』


「いいえ、構わないわ」


『何か特別な名前だったり?』




「特別?
さあ、どうかしらね」




特別も何もここまで彼と似ているだなんて逆に面白い。




『…………』

「どうかしたの?」



『…ジュディと話してると誰かを思い出すと思ったら、私の弟だわ』




ここで私の考えていることが確信へと変わった。



―――――姉弟。



「名無しには弟さんが居るのね。是非会ってみたいわ、その弟さんに」


『その辺フラフラしてるだろうからそのうち会えるよ、多分』





「もう既に知り合いという可能性もある、そういうことね」




『かもねー。
おっとそろそろ宿屋取りに行かなきゃ。
それじゃ、ジュディ!またいつか!』





敢えて全ての名前を名乗らない彼女には、私も敢えて聞かないし、言わない。





「ええ、また」






今、宿屋にはユーリが居たはず。




運命とは面白いもので。




私は似て非なるその姿を見送った。










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