たまたまけった

!ギャグ






旅の途中、森で一夜を明かした朝のこと。






「朝御飯の準備がもうすぐ出来るけれど…一人足りていないわね」


「青年が寝坊だなんて珍しい」


「昨日遅くまで火の番してたからかもしれないです」





『あ、じゃあ私起こしてくるよー』







――――――
――――
――






『ユーリー朝ご飯出来たってさー』





声を掛けると、ユーリは心底嫌そうな声を発しながら私がいる方とは逆へと寝返りを打った。




あぁ、これは起きないパターンだ。






とりあえずユーリが寝返った方向へと回り込み、もう一度声を掛けてみた。





『ユーリ』


「………」





でもやっぱり反応はなくて、すーすーと寝息だけが聞こえる。



今度は顔にかかった髪の毛を耳に掛けてやって、その耳元で優しく囁いてみた。






『ユーリさーん。あなたの名無しちゃんが起こしにきましたよー』






「………う…るせー…」







なんと。





恋人が優しく囁いて起こしてあげたというのにこの言われ様は如何なものか。






『ちょ、うるせーはないでしょう!さすがに傷付くよ!?』







それはあんまりだよ!と続けて声を張り上げると、急にユーリの片腕が伸びてきて、私はそれに巻き込まれ体制を崩した。


少女漫画であれば、よくあるドキドキ展開に発展するのかもしれないけれど、







『ぐ…っ!重……っっ!死…ぬ……っ!』








これは少女漫画なんかじゃない、現実だ。






この男、ガチで寝ている。







その証拠にユーリの全体重が思いきり私に掛かっているのだ。




覆い被さるとかそんな可愛いものじゃなくて、私、完全にユーリに潰されてるんだけどコレ!!



圧縮死する展開なんて一体誰が予想していただろうか。





重みから来る息苦しさによって生死の狭間をさまよっていると、テントに救世主フレンがやってきた。

さすが騎士団のフレン様!!!






「名無し、ユーリは起き………………………………………」








『………え、何その汚い物を見るようなその視線は!!』


「いや別に」




『そう思ってないのなら私の目を見て言え!』




「…君達の関係を知っているのは僕くらいだろうから今ここに来たのが僕でよかったねっていうか早くユーリを起こしてくれよ皆待ってるんだからね」






一呼吸置くこと無く、もの凄い勢いで喋るものだから私は思わず聞き入ってしまっていて、ピシャリとテントの入口が閉められる音でハッとした。






『な…!?違う誤解だよフレン!!!そうじゃない!そうじゃないんだ!あ、いや、関係的にはそうだけど今はそういう展開じゃなくてさぁぁああ!!!』





と、私の声の大きさのせいか、ユーリはうっすら目を開けて少しだけ身体を起こした。






「……名無し……?」


『…あ、今さら起きたの?それと、退いてもらえるとありがたい』






のし掛かる重みはなくなったものの、ユーリが私の上にいる以上、私の自由は未だにない。







「何でおまえがこんな所に居るんだよ…って、あー…そっか……昨日一緒に寝たんだったな………」






『いやいや全然寝てません。昨日は同じテントにすら寝てません』








そうだっけ…と必死に昨日の記憶を辿っているユーリが可笑しい。


まだ寝起きだからか、目もトロンとしている。








そして、近い。




…………え、近い??








「ん…名無し…」


『んう゛!?』







だめだこれだめだ完全に寝ぼけてる。


なんだって朝っぱらから身体の自由はないわ、唇塞がれてるの!!







これじゃただのフレンの言ってた通りになるわ!!…若干なってるわ今!!!







『ちょおおお待っ!待った!!この、これ以上の展開はダメでしょう…!?何がだめって前置きとか必要ぎゃああああああああああああやめ……………っっっ目を覚ましてユーリィイイイイイイイ!!







私の両手には自由は無かったので、唯一自由な足を思いきり振りあげた。







う゛っ!!!







この時、何かを蹴り飛ばした感触はあった。






途端、私の身体が自由になるのと同時にユーリが横にズシャアッと倒れて動かなくなったのだ。










『………ユーリ?』






「…………………」









返事がない。


ただのしかばねのようだ。






え、ちょ、…………………え??








『嘘でしょう…?ユーリ?ねぇユーリ!返事をしてよ……!!!』








揺さぶっても、頬を叩いて名前を呼んでもユーリは微動だにしなかった。




あぁ、どうしよう。







私の顔色がみるみる青ざめていくのが、鏡を見なくてもわかる。








『う、あ、だ、だ、誰かぁぁぁぁああああああああああ誰かありったけのライフボトル持って来てェェエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!










小鳥たちが囀るさわやかな朝、森全体に私の声が響き渡ったという。









――――
―――
――









「いやまさかこの歳でタマ蹴られるとは思わなかったぜ」


「男にとって一番無防備っていうか、守り様の無い場所だからね。言わば剥き出しの内蔵?」


「さすがの僕も君に同情するよ」









『ごめんなさい本当すみませんでした』








(ねぇ…名無しは何があったの?)
(カロル、あなたが気にすることじゃないわよ。はいこれスープね)
(あ、うん、ありがとうジュディス…)
(あの名無しがあんなに頭を下げるだなんて一体…)
(あんたも気にすることじゃないわよ、エステル)


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何を蹴ったってナニを蹴ったんだよ!!

20130202.haruka

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