さよなら恋唄
!悲恋/ユーリ男泣き
!ヒロイン名前のみ
―――――4月。
春と呼ぶにはまだ遠いような風が吹いた、そんな日。
テーブルの上には真っ白な紙とオレの左手にはぺンが握られているが、それは一向に動こうとはしない。
さよなら恋唄
「フレンちゃんと名無しちゃんが結婚ねぇ〜。で、幼馴染み三人組の青年が友人代表の挨拶、と」
「わかりやすい説明ありがとよ」
オレは向かい側に座るおっさんへと冷ややかな視線を向けた。
おっさんの言う通り、オレの幼馴染みのフレンと名無しは、この春に結婚する。
その友人代表の挨拶にオレが指名されたわけだ。
何も計画無しに進めるのはさすがに気が引けるので、今こうしてある程度の内容を考えている。
「青年が壇上に立って真面目な話をするなんて見物だわね」
「ガラじゃねぇのはオレもわかってるよ。それにこれでも一回断ったんだ」
「あら、そうなの?」
けれど、声を揃えて゛ユーリ以外あり得ない!゛と、断ることを逆に断られたのだ。
「名無しもフレンも二人揃って頑固なんだから本当困るよな」
喧嘩なんてした日にはどっちが先に折れるんだか…なんて考えていたら思わず口元が緩んだ。
「…そうは言うけど青年、何だか嬉しそうだね?」
「そりゃそうだろ。大事な幼馴染み同士が結婚するんだ」
そう言うとニコリ、というよりはニヤリ、
おっさんはそんな表情を浮かべてオレから紙をスルリと取り上げた。
「そう?まぁ相変わらず紙は真っ白なままだけどね」
「悪かったな。これから考えるんだよ」
紙を取り返し、再びテーブルに置き直した。
「なぁ年長者のおっさん、何かアドバイスくれよ」
「…………おっさん、この後少年と約束あるからそろそろお暇するわ〜」
「何しに来たんだよ」
思わず溜め息が漏れた。
別におっさんに頼ろうと思っていたわけじゃねぇけど、なんだよただの冷やかしか。
けれど、すぐに出ていくかと思えばそうでもなく、何かを思い出したかのように「あ!」と声を上げたので思わずオレもおっさんの居る方向を見た。
「手紙を書くならさ、昔の事を思い出すといいかもね」
「……昔?」
「そ。こんな事もあったなーとかさ。あーそれと一緒に自分の気持ちの整理もしちゃいなさいな」
「ん?あぁ、サンキュ」
「そんじゃ頑張ってね〜」
何が言いたいのかいまいちわからなかったが、一応おっさんなりのアドバイスなのだろう、それだけ返してオレもテーブルへと身体を向きなおした。
――――――――
――――――
―――――
恐らく、数十分は経った。
「フレン、名無しへ」
唯一紙に書いた部分を声に出して読み上げる。
たったのこれだけ。
本当に何を言えば良いのかわかんねぇ。
「昔を思い出せっつってもなー…」
餓鬼の頃から一緒だった名無しとフレン。
フレンとオレは喧嘩ばっかで、オレ達が喧嘩をしては名無しが泣いて、ハンクスじいさんにこっぴどく怒られたっけ。
喧嘩の原因なんて今思えばきっと下らないことばかりなのだろう。
確か、貰ったクッキーの大きさで喧嘩ってのもあったな。
「はは、馬鹿だな」
いつだって三人一緒だった。
それから、名無しとフレンが付き合い出してからは、今度は名無しとフレンの喧嘩が多くなった。
間に挟まれるのは勿論オレで、ハンクスじいさんは当たり前だが昔みたいにはもう叱っちゃくれなくて。
あれは結構大変だったな。
でもやっぱりふたりで居る時の雰囲気が独特っていうか、お互いの表情がが優しくて、柔らかくて、
あぁコイツ等は本当に相思相愛ってヤツなんだなって思った。
そして数年して―――結婚だ。
一番の親友であるオレに、誰よりも先に教えてくれた。
「名無し・シーフォ、」
声に出してそう言って、
ほんの少しだけ実感が沸いた。
結婚なんてよくわかんねぇけど、オレの前で「僕達結婚するんだ」と恥ずかしそうに言って、
顔を見合わせて笑った二人は本当に幸せそうで、―――――……………
……――ハタリ、
というのだろうか。
表現のし難い音が鳴ってハッとした。
それまで瞑っていた目を開けてふと視線を落として見れば、テーブルに置いた紙には水滴が落ちていて、「フレン、名無しへ」と唯一書かれたその文字がじわりと滲んでいた。
「…っなんだよ、…」
自分の頬に触れた途端、オレの視界はぐにゃりと歪んだ。
そうなれば後はただ、止めどなく流れ続けるだけだ。
「なんなんだよこれ…!」
わかってる。
もうわかってんだ。
「………最低じゃねぇかよ」
いい加減止まれよ、
格好悪いだろ、
結局オレは名無しのことがひとりの女としてずっと好きで、
大切にしたくって、
―――「僕達結婚するんだ。」
けれど、
同じくらいにフレンも好きで、
――「結婚の報告は誰よりもまずユーリに伝えたくて。」
二人が何よりも大切で、
そんな二人の幸せを一番に願ってやりたいのはオレで、
オレじゃなきゃならないのに。
心からおめでとうと、そう言えない自分が悔しくて、悲しい。
「ちっくしょう…情けねー…!」
オレはその紙をただ、強く握った。
部屋の扉の向こうで小さな音が鳴る。
「せーねんって不器用な人間だよね、本当」
扉にもたれ掛かりながら、レイヴンはそっと目を閉じた。
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"ずっと"なんて無いことくらい、わかってた。わかってたんだ。
20130125.haruka
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