ChristmasNIGHT

!幼馴染






『ユーリ、寒い…』



「オレも寒い」





寒く感じて当然だ。




何故ならオレ達は先程まで居た酒場での格好で外に出ているのだから。








ChristmasNIGHT









「おっさん、飲みすぎ」


「今日は飲んでなんぼでしょ!」




普段よりも遥かに賑わうこの酒場には、名無しとおっさん、そしてオレが居る。




この三人の共通点と言えば全員20歳越えってヤツで、オレと名無しは半強制的におっさんにこの場に連れて来られていた。




ちなみに名無しは、これで何杯目になるのかわからないおっさんの飲み物を取りに行っているが、介抱することになるのが目に見えてるオレとしてはもう飲むのはやめてもらいたい。






「青年さー今日がクリスマスだってこと、知ってる?」






「あーそういやそうか。通りで此処がやけに賑わってるわけだ」




"クリスマス"



そのおっさんの一言でこの酒場が普段より盛り上がっている意味が理解出来た。






「…え、それだけ?」




「それだけって何が」







ピタリと手を止めたおっさんは目をパチくりさせた後、わざとらしい大きな溜め息をついた。




ありえない、とは直接言われていないが確実に顔がそう言っている。






「一応確認するけどさ、青年と名無しちゃんは付き合ってるんだよね?」


「あぁ」


「じゃあ何かあるでしょ!!」


「だから何だよ」







確かに名無しとオレは旅仲間であり、恋人同士だ。

この関係は周りの皆は既に知っているというのにここに来て何だというのか。







「……もう嫌だこの子!おっさんはとても悲しいです!!」






おっさんは嘆くように顔を両手で覆った。



おい誰かこの面倒くさいの止めてくれ。
オレはもう既にお手上げだ。







「青年達はさ、ただでさえ二人の時間が少ないっていうのにどうやって愛を育んでるっていうの!?」



「……は?育む?…まぁとにかく落ち着けよ、おっさん」







「これが落ち着いていられますか!!」






ダァアアン!とおっさんがテーブルを叩いた良いタイミングで両手の塞がった名無しが戻ってきた。





『え、ちょ、何!?私そんなに持って来るの遅かった!?ごめんねレイヴン!!』






状況を把握していない名無しは驚いているがとにかく助かった。

もうオレじゃこれを回収しきれねぇ。






「あ、いやいやこっちの話よ、ありがとね。ところで名無しちゃん、青年が名無しちゃんに話したいことがあるからちょっと外に出て欲しいみたいよ」


『え?外?』





「は?」


「そーそー」





立ち上がったおっさんは名無しの背中をぐいぐい押して酒場から出した。






どういう状況だよコレ。意味がわからない。









「オレ、そんな事一言も言ってないんだけど」



「せーねんさぁ」




「何だよ」








「こんな機会なんて滅多に無いワケでしょ?青年も今日くらい素直になってきたらいいじゃないの」



「………………」






先程までのが嘘のように急に真面目なトーンで話かけてきたおっさんは、今度は何も言えずにいるオレに






「自分の気持ちを改めて言えばいいじゃない。言葉ってのはさ、相手に伝わって初めて意味をなすと思うんだよね」







そう言って、オレの背中をトン、と押した。









――――――――
―――――
―――







そして、今に至るわけだ。





雪はそこまで降ってはいないもののこの格好じゃ寒く感じるのも当然で、吐く息も白い。






『あ…っ!』






その後オレが何も話し出さずに居ると、突然名無しが走り出したので反射的に手を伸ばしたが、それはギリギリの所で届かなかった。





転んでも知らねぇからな、と呟いたが、きっと名無しの耳には届いちゃいないだろう。




辺りに人気は無いが、数ある民家には沢山の光が灯っている。
オレ達が今居る広場にも大きなもみの木が装飾されていて、名無しはそれに引き込まれるように走っていったのだ。







『見て見てユーリ!すごく綺麗だよ!』




「…ん?あぁ、そうだな」





『本当にそう思ってる!?』




「…ははっ」

『え、何?』







「いや、名無しは昔から本当変わんねぇなーて思って」






名無しとは長い付き合い、所謂幼馴染ってヤツで、先程と全く同じ言葉を餓鬼の頃にも言われたことがあった。



確か、ハンクスじいさん家のクリスマスツリーを名無しとフレンとオレで飾っていた時だ。






楽しそうに飾る名無しとフレンを見てからオレは、それまで動かしていた手を止めた。

そして、暫くそっぽを向いていたオレに名無しがその言葉を言ったのだ。







『見て見てユーリ!すごくきれいだよ!』








当時はその気持ちが意味することなんてわからなかったが、それは一丁前にやきもちを妬いていたのだ。







今だって妬かないと言えば嘘になる。

好きなのだから当然だろ。さすがにもう餓鬼じゃねぇし不貞腐れたりはしないけれど。







『そうかな?』


「あぁ変わんねぇよ」






だから、名無しもオレも変わらねぇんだよ、本当。






『ううん、やっぱ変わったよ』



「へぇ?」









『だって、ユーリと私、恋人になったよ?』







「は、」







振り向き様にそう言った名無しがあまりに可愛くて







「おっまえ………」







その不意打ち過ぎる発言に、思わずオレはそれまで合わせていた目を反らした。







『そうでしょ?』


「あぁ、そうだったな」







サラリと言ってくれる分、名無しの発言は嘘偽りの無い言葉だってのはよくわかるのだが、オレはどうもその不意打ちに弱いらしい。

名無しは素直で、オレはどちらかというとその逆だ。





゛好き゛というそんな些細な言葉だって、普段オレから言うことはない。





名無しのことは勿論好いている。それを本人に向かって言えないっつーか、言わなくても伝わっている気がしていて、



…そもそも好きじゃなかったらこうして一緒に居ないわけだし。





多分名無しは、そんなオレの性格を十分に理解してくれているのだろう。






『私は嬉しかった。こうやってユーリの隣に居られて幸せだよ』





――――言葉ってのはさ、相手に伝わって初めて意味をなすと思うんだよね







おっさんはそう言っていた。



そうであるのならば。






滅多に無いであろう、こんな機会を作ってくれたおっさんに今日ばかりは感謝しても良いのかもしれない。








「名無し」


『んー?』






「今日はクリスマスなんだとよ」


『うん、そうだね?』






オレに向かって微笑む名無し。


この静かな広場にはオレと名無しの、ふたりだけ。


その声も笑顔も全部オレのものなんだ。







昔も今も、
そしてこの先もずっと変わらない。







「だからってわけでもねーけど、」



『わっ!?』







顔を見るのがどうも気恥ずかしくて、オレは名無しの手を引いておもいきり抱き締め、その耳元で言った。








「オレ、名無しのこと好きだから」










言った瞬間、これまで胸に引っかかっていたようなものがストンと落ちて、心が満たされたような気がした。





あぁ、好きだっていう言葉を言うのはこんなにも恥ずかしくて嬉しくて、幸せなのか。





こんな感情も名無しが居なければ一生知ることはなかっただろう。







突然の行動に驚いて行き場を無くしていた名無しの手は少ししてオレの背中へと回された。






『うん、知ってるよ。私も大好きだよ、ユーリ』






ゆっくりと身体を離せば、自然に名無しと目が合う。







「なんか改めて言葉にするとアレだな」

『ふふ、』






オレらしくもないが、きっと今日はクリスマスだから、




そういう事にしておこう。







「あー…けど、いや、好きじゃなんか違うな」








好きよりもっと、











「オレは、おまえを愛してるんだ」











聖なる夜
愛しい君に
キスを贈ろう










――こんなに想ってんだよ、って










それがオレの言いたかったこと。






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おっさんは絶対ナイスパスをしてくれる人だって思ってる。
みなさまよいクリスマスをー!

20121224.haruka

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