星が笑った









つい最近まで暑いと言っていたのが嘘のようで、

ヒュウッと吹き抜ける風がすごく冷たくて身震いした。







「まだ外に出てたのかよ。風邪引くぞ」






宿屋のバルコニーには影がふたつ。


ユーリと私だ。






『んーもう少ししたら戻るよ』


「もう少しって…何かしてるのか?」





ユーリは私の隣に並んで手すりに手を掛けた。

そのすぐ隣にある体温すらも温かく感じてしまうくらいに今日は寒い。





『ううん?あ、でも強いて言うなら星を観てたかな』

「ははっ!星ねぇ」





『自分から聞いてきたくせに失礼な奴』






「名無しって星に詳しかったか?」




『……全然』





そう言うとユーリはまた笑った。





『ユーリだって詳しくないくせにっ!』




「ん?オレ?
そうだな、詳しくないけど………あぁ、流れ星は知ってる」









『…………………はい?』






そのあんまりな回答にすっとんきょうな声を出してしまった。






流れ星って。


そんなの誰でも知ってるでしょ、

そう言い返そうとしたけれど言えなかった。







「なぁ、名無し」






何故なら、ユーリがいつもと違う感じで私の名前を呼ぶものだから。






「流れ星が流れたら、今おまえは星に何を願う?」






『な、何って…』






突然の質問に私は口籠った。






いきなり言われても、困る。


確かに星を見ていたとは言ったものの、流れ星を探していた訳でもないし、
そもそも何故こんな会話になってしまったのだろう。





『うーん………』





私が考えている間もユーリは何も言わずに待っている。






………あれ?
これ、何かしら言わないと皆の居る部屋に戻れない流れ?







『あ、』


「ん?」







そこで、一つだけ思いつくものがあった。







『私さ、今のこの感じ、好きなんだよ』




「今?」








『そう。カロルにレイヴン、エステルにリタ、ジュディスが居てね、


私の隣には今、ユーリがいる』







『世界が平和になって、そういう当たり前な日々がずっと続けばいいな……って…願う…かな…うん』








出来ればユーリの隣に居るのは私でありたい。


なんて、一番奥底にある一番の願いは本人に向かっては絶対言えないけれど。









『ね、ねぇちょっと、何この沈黙……』









願いごとなんてあまり人に言うものでもなければ、言った事もなくて、ただでさえ恥ずかしいのにユーリは何も言ってはくれない。




何だろうこのいたたまれない空気は。







部屋戻っていいかな、いいよね!







『じゃ、じゃあ…部屋、戻るね』








そう言った後は逃げるように手すりから手を外して足の向きを変えようとしたけれど、
ユーリに手首を捕まれてそのままグンと引き寄せられたことで、それは出来なかった。











『え、ちょ、な…にっ!?』










思い切りユーリの胸にタイブした驚きと恥ずかしさから、まずはとにかく離れようと
ユーリの両腕を掴んで離れて見上げれば、思いの他その顔が近くにあって私は硬直した。















「そんなの星じゃなくてオレに直接言えよ」










途端、唇がチュッと音を立てて


私の唇は、ユーリにあっさりと奪われたのだ。











まるで何が起きたのかさっぱり理解出来ない私の両頬に手を添えて、ユーリは笑う。










「叶えてやるからさ」










その後ろで
星がひとつ、流れたような気がした。
















(素直に言えばいいだろ、オレと居たいってさ)
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星が綺麗に見える季節になりました。

20121029.haruka

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