それは遠からず
! レイヴン視点
『私とユーリって付き合ってるらしいよ』
「へーそうなんだ。オレ知らなかったんだけど」
『うん、だって私もさっき知ったもん』
「そっか」
自分達のことにも関わらず、それはまるで他人事の様に。
おっさんを前に青年と名無しちゃんは淡々と会話を続けている
『わっ!見て見てユーリ。すごい綺麗に取れた』
「お、やるじゃねーか」
『途中で千切れた時の絶望感っていったらないけど、スルッといけたら地味に気分良いよね』
「あーわかるわかる」
―――――インゲンのスジを取りながら。
*
何故インゲンのスジ取りをしているのかというと、今日の夕飯の具材として使うからだ。
でもそんなことはどうだって良くて、おっさんとしては、さっきの会話の真相がすごく気になっていたというのに、インゲンのせいでその話が丸々なかったことにされかけている。
「あのー…さっきの話のことなんだけどさ」
そう切り出してみれば、調理場に立って背を向けていた二人がこちら側を向いた。
『…え?さっき?』
「インゲンがどうかしたのかよ」
「………はい?
いや、インゲンじゃなくって。その前」
インゲンとか正直どうでもいいから。
食べれれば何でもいいから。
二人は゛その前゛の検討が付かないのか、顔を見合わせながら考え始める。
あーもうじれったい!!
「だから!青年と名無しちゃんが付き合ってるって話よ!」
直接聞くんだから遠回しに聞く必要なんてなかった。
すると二人揃って「『ああ、その話』」なんて言うものだから、
なんだろう、本当仲が良いよね。
俺がこの旅に初めて同行させてもらった時には既に一緒だったふたり。
聞けば、青年と名無しちゃんは下町育ちの幼なじみらしい。
幼なじみであるならば、これだけ仲が良くても普通なのかもしれないけれど、ピンときたのは同じ幼なじみのフレンちゃんと再開した時だ。
青年と名無しちゃん、フレンちゃんと名無しちゃんを見ていて思うところがあったのだ。
おっさんだって伊達に長生きしちゃいない。
雰囲気でわかるのだ。
『あれは食材買いに行った時にティグルさんの奥さんと会って、そこで゛ユーリと付き合ってたのね!゛って言われちゃってさ』
もう完全に決めつけられたかのように、と名無しちゃんは苦笑い。
「なんでまたオレと名無しなんだかな」
『んー私にもわからないけど…、よく一緒に居るからじゃないの?』
「………え?何、おふたりさんって付き合ってんじゃないの?」
おっさんの目に狂いは無いはずなのに、青年はキッパリ「付き合っていない」と言った。
「ふーん、なるほどね。でも青年も名無しちゃんも好きな人くらいはいるんでしょ?」
―――――目の前に。
とは言わないけど、さすがに。
「………いや…、」
あ、今の青年、すっごく分かりやすい。
こんなにわかりやすい青年を見るのは初めてで少しだけ、面白い。
次に名無しちゃんの方を見てみれば、合っていた視線を一気に反らされた。
『な、なんか今日のレイヴンやだ!!』
「えー?おっさんは青年だと踏んでたんだけど。そうじゃないならフレンちゃんの方なの?」
フレンちゃんには申し訳ないけれどこれはまず無いだろう。
名無しちゃんから゛そこで何でフレンの名前が出てくるの゛と言わんばかりのこの表情と、
あからさまな表情をおもてに出した青年。
そして、青年は何も言わずに野菜を切り始め、また名無しちゃんも俺の質問に答えることなく野菜を入れる為のボウルを取り出し始めた。
ストン、ストンストンストンストン―――――
―――――……
けれど、野菜を切る軽快な音が突然止まる。
「名無し・ローウェル」
『………え、』
「お?」
青年の突然の発言に名無しちゃんが床にボウルを落としたことで、カーン!と高い音が調理場に鳴り響いた。
「面倒事が全部片付いたら、だな」
『ユーリ、切った野菜ここ入れて』
「照れんなって」
『! 照れてなんかない!!!』
「そーかい。
未来のローウェルさん」
『なっっ!?』
あー
そう、
そういうことね。
「これはこれで幸せそうだわね」
相思相愛であるならば付き合えばいい、そう思っていたおっさんの考えは浅はかだったのかもしれない。
本当、このふたりは歳相応じゃないっていうか。
…けど、ま、
若いっていいよね!
俺は、
ふたりの背中を見ながら
心からそう思ったのだ。
それは遠からず
(お似合いなわけだしね)
------------------------------
全て。
全てを片付けたら、
伝えるから。
それはそう遠くはない。
20121008.haruka
[back][ 12/86 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]