完全に惚れていた。







「名無しって可愛いよね」





「んーまあな、…って、は?誰が可愛いって?」



「今ボク言ったよね、名無しって」





ひとつの事に集中していると他の事が厳かになってしまうってのはよくある話で。




「悪ぃ、剣の手入れしてたから話半分にしか聞いてなかった」

「もー!」




憤慨したカロルは、オレが居る方向と全く別の方へと顔を反らす。





「機嫌直してくれよ先生。で、何で名無しの名前が出て来たんだ?」





すると何か大事なことを思い出したかのように、

そして焦った様子で口を開いた。




「さっき名無しが知らない男の人と一緒に居るのを見てさ」




そう言ったカロルの意外な発言に思わず剣を落としそうになった。





「………は?………………名無しが?」





「うん、すごく仲良さそうにしてたから…その、こ、ここ、恋人だったりするのかなって」




さらに記憶を振り絞るようにうーんと唸る。



「髪がツンツンして茶色の人なんだけどユーリ知ってる?」


「いや、知らねぇ」




…そもそもそんな少ない情報かつ外見的なモンじゃわかるもんもわからない。




それに、世界中を旅して回っているから、オレの中で愛だ恋だそんな暇は無いと決めつけていた。

けど、よく考えたらそんなことは関係なくて、



名無しに恋人が居たとしてもおかしな話ではないことを気付かされた。




「剣を振り回さない名無しって普通に可愛い女の子なんだなって思ったよ」



そんなオレの考えをよそに魔物と戦ってる時の名無しは根っからの戦闘狂にしか見えないのにね、とカロルは続けた。



「…おまえソレ誉めてるつもりかもしれないけど、絶対本人に向かって言うなよ」


「? うん!わかった!」




何故そう言われたのかイマイチ理解出来ていないカロルは満面の笑みと大きな声で返事をしたのでオレはホッと息をつき、カロルの頭を撫でてやった。





(しっかし恋人、ね)





それからオレは、何か胸に突っかかるようなこの感じがすごく気持ち悪くて





それは結局夜まで続いた。







――――――――
―――――
―――






「………………ねぇ、なにこの空気。居心地悪いのはおっさんだけ!?」





それは夕飯時、おっさんが突然スプーンをテーブルに置いて叫びだした。





「行儀悪いぜおっさん。静かに食えよ」




「いや、だっていつもはもっとこうさ………っていうか青年がいつもと違うんだって!」


「オレかよ」




おっさんはこの空気を作っている原因はオレにあると言い出した。




「おっさんと同意見なのが釈だけどあたしもそう思うわ」



さらにリタもそう続く。




『何かあったの?』

「別に何もねーよ」

「…何かある時、人間は皆そう言うのよね」

「ジュディ、おまえな、」

「あら、何か間違ったことでも言ったかしら?」

「……………」

「ユーリ、悩み事があるんです?」



これは参った。


おっさんやリタ以外にも次々と口を開いていく。


どうすりゃいいんだよこの空気。




「あんたが態度や顔に出るっていうの?周りに気付かれるなんて珍しいこともあるのね」




理由はなんだって良いけど、リタがポツリと呟いてスープを口に運んだ。





この空気の原因が本当にオレにあるならば、理由は昼間のアレだ。






「あ、もしかしてユーリ、昼間の名無しのこと気にしてるんじゃない?」









「ぶっっ!!」









まさにその唯一の心当たりサラリと言いのけたこの少年。

しかも名無し本人を目の前にして。



動揺を隠しきれなかったオレは、口に含んでいたものを思わず吹き出した。




これじゃ完全にカロルの発言を肯定してるみたいじゃねぇか。


いや、間違いではないけれど。





『昼間?』

「うん!名無しが」


「ちょ、待てカロ…!!ぐ……っ!」



ガターン!!!



「いいよ少年〜話続けちゃって〜」



本人に直接聞こうとするカロルを阻止しようとするも、直前でおっさんがオレの口元を両手で覆った為にそれは叶わなかった。

っつーかおっさん、普段はダラダラしてるくせにどうしてこんな時に限って全力なんだよ!
クッソ、手が剥がれねぇ!



「ぐへぁっっ!!」




手を剥がすことを諦めたオレは、おっさんの胸元に全力で肘鉄をお見舞いしたことで解放されたが、その時には話を終えた後だった。




今思えばなんであんなに過剰反応しちまったんだか。

いつものように黙って聞いてりゃ普通に答えが得られたというのに。




まぁこれも今さらなんだけど。




「へ〜そんなことが…」


『あーあれかー!』


「っていうか、名無しちゃんも隅におけないわねっ!…だから青年がこんな状態なわけ、ね」




「やっぱり名無しの恋人、なの?」



知りたいような

知りたくないようなこの複雑な気持ち。



あぁでもこれを聞くことでスッキリするのかもしれない。





たとえそれが、
どちらの答えでも。









『いやいやそんなんじゃないよ!っていうか多分ユーリも知ってる人だし』


「は?オレ?」


『うん。下町のパン屋の息子さんわかるでしょ?確か3つ下だったっけ。
たまたま会ってさ、垢抜けたのなんの!男の子も変わるもんよねー!』





つい昔みたいに頭を撫でたらすっごい嫌がられたけど!と嬉しそうに話を続ける名無し。


そこで昼間、カロルが言っていたことと辻褄が合ってきたと同時にものすごくこの場から立ち去りたい衝動にかられた。





「そうなんだ!ボク、てっきり名無しの恋人かと思っちゃった!」


『あれは弟みたいなものよ。それに今はそんな暇ないでしょ!』




「は…そっか…やっぱそうだよな…ははは…はぁ…………………」





『何でそこでユーリは脱力してるのよ』



「…………別に」



「でもよかったわね〜」



「ユーリ、何かいいことあったの?」



「いんや〜なんでもないわよ少年。こっちの話かな、ねっ!青年!」





おっさんは、馴れ馴れしくオレの肩に自分の腕を回した。





゛良かった゛



確かにそう思ってしまった。






けど、おっさんにも知られてしまったことがどうにも納得いかなくて、



「…………おっさん後で覚えてろよ」



「えっ!?なんで!?」




オレはおっさんを睨み付けた。








勝手に気にして、




勝手に安心して、




ずっと気になっていたこの胸の突っかかり。










ああ、もうコレ、

認める他ねーじゃん。













(で、ユーリは何で本調子じゃなかったわけ?)
(……その話はもう勘弁してくれねーか)


------------------------------
いじられるユーリが見たいとのお声を頂いたので。
ユーリをいじれるのはおっさんかジュディスだよね。
あと一番最強なのは無垢な少年の発言。

20121005.haruka

[back]

[ 13/86 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -