雨よ、どうかまだ止まないで







―――ポツ






―――――――ポツ







最近多いと思う。







ザァァアアアアア――――――――……………







突然の雨。








『うっそでしょ…』






買い物を終えて、さあ宿屋へ戻ろうと思ったら突然の雨に出くわした。

当然のことながら傘なんて持ち歩いちゃいなくって、お店の屋根下で足止めを食らっている。





『あーもう走ろうかな…』





この後は宿屋に戻るだけで大きな予定もないし、そもそもこの雨がすぐ止むなんて決まってるわけでもない。




よしっ!と気合いを入れた直後、聞き慣れた声が私の名前を呼んだ。





「何やってんだよ」





私の目の前にいるのはユーリなんだけど、





『むしろ私が逆に聞きたいよ。こんなに雨が降ってるのに傘もささず何いつもと変わらないポーカーフェイス気取って町中を歩いてるわけ』





そう、この大雨の中、ユーリは走るわけでもなく雨宿りが出来る場所を探しているわけでもなくただ普通に歩いていた。





「これだけ濡れちまったらもういいかと思ってさ」


『冷たっ!』




「あ、悪い」





ユーリは私と同じ屋根下に入って両手を思いきり降り、手に着いていた水滴を落としているけれど、それ以前に髪や服がもう全体的にびっしょりじゃないですか…。



っていうか水滴が顔に飛んできた。冷たい。





「何、おまえ、止むまでここに居るつもりか?」


『まぁね。だって服濡れるの嫌だし。ふふ…女の子らしいでしょう?』





そう言ってにユーリに向かってウィンクひとつかましてみたけれど、その顔は赤色に染まるわけもなく、それどころかユーリは目を細めてさらには口端を上げた。






「…その割にはさっき何かを決意して飛び出して行きそうに見えたんだが」


『は、ははは…見てたんですねー……』






「それに折り畳み傘も持ち歩いていないようじゃ『ごめんなさい出直してきます』






うん、
ダメだった。




女の子らしくするの、
ダメだった。







「ユーリ!名無し!」





『あれ?』
「お、」





声がした方を見れば、ピンク色の傘をさしてこっちに駆けてくるエステルと、そのもう少し後ろを歩くリタが居た。





「ふたりで何していたんです?」




『んー私は買い物。ユーリは散歩?さっき会ったばっかりだよ』



「っていうかあんたたち、傘は?」





答えはわかっているのであろうリタはそれでも溜め息まじりで問う。





『傘があったらここには居ないね』

「……そりゃそうよね」




「! それじゃあ、わたしの傘をお貸ししますよ!」




『えっ!?でもエステルはどうするの』

「わたしはリタのに入れて貰います。リタ、いいです?」

「ええ、構わないわよ。……既に手遅れな人もいるみたいだけど」





リタの冷たい視線を追えばその先に居るのは言わずもがな雨に濡れたユーリで

自覚している本人もヒラヒラと手を振った。





「ユ、ユーリは男の子だから大丈夫ですよ!風邪は引きません!」


「なんだそりゃ」




「では、はい、ユーリ。ちゃんと名無しを送り届けて下さいね」




エステルは傘を閉じてそれをユーリに手渡し、リタの傘の中へと入る。
そしてそのままリタから傘の取っ手を貰い、持ち直した。





「送り届けるも何も行き先は同じなんだが…ま、とにかくありがとな。助かった」




「はい!それじゃあまた後で!」






―――――――
―――――
―――





ユーリは、閉じていたピンク色の傘をワンプッシュで開き一歩前に出る。



雨がその傘に強く当たる音がよく聞こえた。




『ユーリ』

「ん?」





『ピンク似合わないね』









「じゃあな名無し、おまえは走って帰れよ」








『ええええ!?ごめん間違ったすっごく似合うよ!黒に映えるっていうかうん、すごく良いね!』





「…似合うって言われても別に嬉しくねーな」




『ユーリ面倒くせぇぇええ!!!』









するとユーリは笑った後、私に背を向けてまたもう一歩進み出す。



さすがに本気で置いて行ったりしないのはわかっているけれど、思わず名前を呼んだ。





それに気付いたユーリは、くるりと私の方へと振り返り、






「入って行きますか、お嬢さん」






らしくない言葉と一緒に手なんか差し出してくるものだから驚いて



少しだけ恥ずかしくもあったけれど、






『…お邪魔します』







私はその手を取った。











「じゃ、帰るか」













(ユーリの身体が冷たいです)
(我慢するか傘から出るか選べ)
(ユーリの態度も身体もどっちも冷たい!!)


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ユーリに「帰るか」って言われたいが為に書いたお話。
劇場版ユーリが赤い傘さしてるのもクッソ可愛かったよね!(^q^)

20120924.haruka

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