華に咲け!





「わざわざ人混みの中に行く意味がわかんねぇ。ここからでも十分見えるだろ」



『…予想通りの返しをありがとう』



「どういたしまして。さすがは長い付き合いってやつだな」





はははは、


全く心のこもっていない私とユーリ、ふたりの笑い声が響く。






『………はぁ』






今日、貴族街の方で大きな花火が上がるらしく、本当はユーリとフレンと三人で見たかったのだけれど、帝都での行事となれば騎士団が出動するのは当たり前で、結局はユーリと二人で見ることになった。






゛それじゃあ花火はどこで見ようか゛






それで先程の会話に戻るわけだ。





「花火なんて何処で見ようと同じだろ」


『同じじゃないよ!』




せめて下町の広場で花火を見たい私と、人ゴミが嫌だからと自分の家の窓から見たいと言い張るユーリ。


いつもであれば、この言い合いにフレンが入って、どちらかに転ぶのだけれど、今回はそのフレンが不在である為、だらだらとこのやりとりか続き、もう花火が始まる時間になりつつある。




ああ、もう!




『……………』




と、ここで私はふと冷静になる。



そもそも私はなんでユーリと一緒に見ることにこんなにもこだわっているんだっけ。



別に一緒に見なくてもいいじゃない。




『そっか、わかった』


「おっ。おまえから折れるなんて珍しいな」





驚きからか、若干目を見開いたユーリに私は背を向けて、ドアノブに手を掛けた。





『ううん、私は外で見るよ』


「…は?」




『だから別行動。
花火終わったらそのまま帰るから』




「あ、おい!名無し!」




後ろから呼び止める声が聞こえたけれど、私はそのまま階段を降りた。

別にユーリと見ることにこだわる必要なんて何処にもない。




それに、広場に行けばテッドとか、………テッドや…………………………………………テッドが居るし。

「名無し!」




ほらテッドが居た!




「あれ、ユーリは?」

『ユーリは自分の家から見るってさ』

「ふーん、まさか喧嘩?」

『喧嘩ではないかな…多分』

「早く仲直りしなよ!」




『あはは』




喧嘩じゃないんだけどな。


テッドはたまに妙に大人びた発言をする。

思えば私も昔、ハンクスじいさんに似たようなことを言われたような気がする。
下町に居れば嫌でもそうなってしまうのだろうか。

でも、テッドの頭を撫でてやると嬉しそうに笑うので、あぁやっぱりまだ子供なんだと実感した。




「テッドー!」



『テッド、呼ばれてる』



「…あっ!
皆に花火を見る場所取っておいてもらってたんだ!名無しも一緒に見る?」




『ううん、私はあっちでみるよ』

「わかった!じゃあね!」





テッドも普通に考えて近所の友達と見るよね。

だから私も昔からユーリやフレンと見てたんだっけ。





『いつの間にかそれが当たり前になってたのか』






誰にも気づかれない小声でそう呟いた時、帝都の空が一気に明るくなった。






ド―――――ン!!!






その光と音の大きさに驚いて、思わず下を向いていた顔を上へと上げた。




夜空に咲く大輪の光の華。





『…綺麗』





周りのざわつきにつられて私も思わず言葉をもらした。




『………』




けれど、その言葉とは反対に私の表情はどこか暗い。





花火が綺麗なのは本当。




でも、
足りない。




何が?




そんなのわかってる。




『楽しいことも半分こ…だったっけ』



そう言ったいつかの日。
やっぱり一緒じゃなきゃつまらないんだよ。




『まだ始まったばかりだし戻ろうかな…』




そう言いつつ、私の足は既にユーリの家に向かっていた。







「名無し」






箒星に向かう小さな坂道を下った所で、名前を呼ばれた。



声は勿論、今日は花火の明るさで誰だかがハッキリとわかる。





『ユーリ?どうして此処に?』




花火の音が大きいから、いつもより大きな声で。





「ん?誰かさんがひとりで寂しい思いしてんじゃねーかと思って」




ユーリは嫌味ったらしく言っていたが強ち間違いではなくて、思わず私は笑った。





『うん。やっぱりひとりで見てもつまらなかったからユーリの家でユーリと見る』





そう言ってユーリの家に向かおうと歩き出すと、いきなり頭を撫でられた。




「はは、」




いや、鷲掴みにされたという表現の方が近いかもしれない。




『なっなに!?』


「ま、外で花火を見るのも悪くねーかもな」





『へ?』





「行くぞ」





乱暴で、けれどどこか温かいその言葉と同時に手を引かれて。






その足は
広場の方へと向かっていた。







繋がれた手が、すごく熱を持っているのは





きっと
夏のせいだ。









(一人で花火を見てても味気ねーのな)
(そうなんだよね。やっぱり楽しい時は一緒じゃないと)
(ああ、楽しいことも半分こってか?)
(そうそう。けどこれって、一歩間違えると依存だよね)
(…かもな)


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今年は花火大会を全力でスルーしてネオでロマンスなイベントに行きました。
後悔はしていない。

20120804.haruka

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