幸せバレッタ





『久しぶりのデートだったねー』



隣を歩く名無しは、そんな事を言って幸せそうな顔をオレへと向けた。




「デートっておまえな」

『違った?』


「どーだかな」




デートと言ってもただ単純に二人きりで買い物に出掛けているだけで、さらに言えば、買い物と言っても旅道具の買い出しで、デートと呼べるものかはわからない。



オレと名無しは、そういう関係でもあるが、それ以前に゛凛々の明星゛という同じギルドの仲間でもある。


それあってか、普段も、そして今も手を繋ぐだとかそういった事は一切していない。



それはこの先も変わらないのだろうか、なんて下らない事を考えていると、隣に居たはずの名無しが居なくなっていることに気付いたのだが、


伊達に長い付き合いをしていない、と、その後すぐに名無しの姿を見つけられた自分に満足感を覚えた。





「名無し!」




呼ばれたことに気付いた名無しは、オレに向かっておおきく手を振った。




『ちょっと出店見たいから先帰っててもいいよー!』




先帰ってても良いって、



「デートじゃねぇのかよ」



思わず不満の声を漏らした。





「しっかし随分と活気付いてるな」




今日は特別何かが開催されているのか、はたまたそういう活気付いている街なのか。


中央の広場は出店だらけで、武器に防具、道具から、食器や小物類までさまざまな売り物が並んでいた。



そこでふと目に付いたモノがあった。


なんて言ったっけ。




あのアレ、
髪につけるヤツ。




「そのバレッタが気になるのかい?」

「! ああ」



それだ。

バレッタ。

思わずパチンと指をならしそうになった。




「これ、ひとつ頼む」




オレらしくもないが、名無しに似合うのだろうな、なんていうそんな気持ちと、

純粋にこれを付けた名無しの姿が見たいと思った。



「ソレ、すぐ使うからそのままでいいんで」




支払いを済ませた後にそう言えば、おばさんは「じゃあ値札だけ切るわね」とハサミを取り出した。




「彼女へのプレゼントかい?」

「…まあ」



事実なのだが、直球で聞かれると、こうもこっ恥ずかしいものとはな。



「アンタの彼女は幸せ者だね」



オレの言葉を待たずにおばさんは続けた。



「これ、ある花がモチーフになってるんだけど、その花の花言葉はね、゛変わらぬ愛を永遠に゛っていうんだよ」

「へぇ」



ただでさえ花に詳しくないオレには花言葉なんて余計にわからなくて、


―――変わらぬ愛を永遠に


ただ耳に残る、先程教えてもらった花言葉を心の中でもう一度言ってみた。



「まいどあり!」

「どーも」



店の人からバレッタを受け取り、オレは店を後にした。




先程名無しがしゃがみ込んでいた店の近くまで戻ると、程なくして慌てた様子の名無しが駆け寄ってきた。




『ユーリ!待っててくれたんだ?待たせてごめん!』

「名無し、横向け」


『へ?』



いきなり何を言い出すんだ、という顔をしつつもオレの言った通りに横を向く名無しに手を伸ばして

パチン、と

音を鳴らした。




呆然とする名無しから少し離れ、改めて名無しを正面から見る。



「お、やっぱ似合うな」



むしろ、予想以上。


満足そうなオレと未だ状況を把握しきれていない名無し。



『これ…』



名無しはオレが付けてやったバレッタにそっと、優しく触れる。



「やるよ、ソレ」

『ユーリ』

「なんだよ」

『…ユーリッ!』

「うおっ!」



思いきり飛び付いてくる名無しを抱き締める形で支えた。



「…名無し?」

『……』



オレは、何も喋ろうとしない名無しの両肩を掴み、自分から少し離して驚愕する。



「おま、何で泣いてんだよ」

『う、嬉しくて…ユーリが嬉しいことしてくれるからだよ…!』


すごく嬉しいんだ、
と涙を流していた。


オレは、「あー」なんて言葉になっちゃいないものをはいて、名無しの涙を乱暴に拭ってやった。



「オレさ、名無しにプレゼントなんてやったことなかった、よな」



思い返せば一度も、

一度もなかった。

けれど名無しは鼻を啜りながらそうじゃないと言う。



『これまでにもユーリからもらったものはたくさん、たくさんあるよ』



それが形として残るモノではなかっただけだと。
心の中にはちゃんとあったと。


目尻に涙を残してオレに微笑む名無しがすごく愛しくて。



「名無し」



オレは、名無しの頬に手を添えて、触れるくらいのキスをした。



唇を離すとくすぐったいと名無しは笑った。




「…買い物も済んだし行くか」

『…うん』




そのまま名無しの手を取って歩き出した。




『ユーリ、ありがとう。大切にするね』


「ん?ああ」



『大好き』




最後の言葉はまるで独り言かの様に小さな声で。



「オレも、」




だから、オレも聞こえるか聞こえないかの声で返してやった。





「オレもだよ、名無し」




オレも大好きだ。






すると名無しはオレの手を強く握り返してきたんで、

多分、伝わっていたんだと思う。






(変わらぬ愛を君に捧ぐ)

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書いてて爆発しそうに恥ずかしかった。

20120701.haruka

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