苦い、苦しい。

!悲恋



旅の途中、フレンに次の街で話したい事があると声を掛けられて、二人で街の軽食屋に入った。



頼んだものはコーヒー二つ。




本当は甘味モノを頼みたかったんだが、そういう雰囲気でもなかったので、フレンがコーヒーを頼んだ時に思わずオレもそれで、なんて頼んでしまった。




「で、何だよ話って」




どう考えたって何かの説教だとしか思っていなかったので、

次にきた言葉がそういう意味でも、また違う意味でも意外で、コーヒーに入れるはずの何個目かの角砂糖をコロンとテーブルの上に落とした。




「帝都に帰った時に聞いたんだけど、名無し、結婚するらしいよ」



「名無しが?」




名無しというのは帝都、ザーフィアスに居るオレ達の幼馴染み。それから。




「そう。君と別れた後に付き合った人と、らしい」




へぇ、

そう相槌を打って
落ちた角砂糖を拾い上げて、カップの隣に避けた。




「めでたい話じゃねぇか。今度帝都に帰ったら祝いに行かなきゃなんねーな」




未だコーヒーに手を付けないフレンに飲まないのかと聞いたが、フレンはああ、と言いつつ手を動かさなかった。



「…後悔してる?」




フレンがあまりに真剣な表情で聞いて来るもんだから、オレもカップの中でかき混ぜていたスプーンを手離した。




「なんだよ今さら。オレ達はとうの昔に終わってんだよ。っつーかおまえがそんな顔するなよな」

「だって君は、」




「オレは名無しを幸せにしてやる自信はなかったよ」




騎士団を辞めて、下町でフラフラして、ひょんなことで帝都を飛び出て。



そんな奴、ひとりの女を幸せに出来る訳がねぇだろ。




「名無しの奴、幸せそうに笑ってたか?」



「ああ、とても」



「…そっか」




「ユーリ、君にも直接会って言いたいって言ってたよ」

「はは、何持って祝いに行きゃいいかな」
「花とか?」

「花?」



「ああ見えて名無しは花が好きなんだよ」

「おまえソレ名無しが聞いてたら殴られたところだぞ………って、あ、」







「おまえ、花なんかに興味あったっけ」

『そんなに詳しくはないけど見る分には好きだよ』

「どれが好きなんだよ」

『ストック』

「…知らねぇな」

『知ってたら逆に驚き。…っていうか引く』

「…オイそれはどういう意味だ」

『っぎゃーごめんごめん!離してー!』

「反省の色が見えねーなー」






そうだ。

どんな花かを調べていつの日か名無しにやるつもりだったんだっけ。





「…今になって思い出すのかよ」





「どうかしたかい?」


「いや悪い、何でもない。花、ね、考えとくよ」




そう言って少し冷めたコーヒーを飲むと、フレンもやっとコーヒーに手を付けた。




「結婚か、そうだよな。オレ等ももうそんな歳だよな」

「ああ。あっという間だよ」

「だな」




一息置いて、グイッと一気にコーヒーを飲み干した。




「フレン、」

「なんだい?」






「コーヒー苦いな」


「そんなに砂糖入れておいてよく言うよ」






「あー、苦い」











(エステル、ストックって名前の花、知ってるか?)
(はい!冬のお花です!赤にピンク、黄色や白とさまざまな色がある可愛いお花です!)
(詳しいんだな)
(ふふ、ちなみに花言葉は"幸福"だったはずです)
(へぇ)
(でもユーリの口からお花の名前が出てくるだなんて思っていませんでした。何かあったんです?)
(いや、幼馴染みが結婚するからソイツが好きだった花でもやろうかと思ったんだ)


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全てが遅かったっていう切ないお話。
お花に関しては後日改めて日記ででも語ります。

20120701.haruka

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