03.きみのとなり






「じゃ、」
『いってきまーす』




カロル先生と軽い相談の結果、夜まで各自自由行動となったのでオレは名無しと外に出た。








『っはー!気持ち良い!』

「…おまえな、人の視線を集めてるぞ」

『! あぁ、ごめんごめん』




宿屋を出てすぐの広場で、
大きな声で、そして大きな伸びをした名無し。



オレ達を見慣れないであろう町の人々はそりゃもう怪訝な表情でこちらを見てくるわけで。



『あっ!良い場所見つけた!』




そんな視線を気にしない名無しは、ベストポジションだと日陰の出来ている大きな木に向かって走り出した。





「…元気だな、あいつ」




数秒置いて追い付いたオレも、その木の下に座り込んだ。




「飯食った後にすぐ寝たら太るぞ」

『じゃあ後で手合わせといこうか!脂肪燃焼!』




本当元気だな、

今度は本人に向かって直接言った。

それからは、今後ことだとか下町のこと、はたまた最近あった面白いこと等、他愛のない会話を交えていた。


すると、ふいに
ザアァと大きな風が吹いて木々達が大きく音を鳴らし、
名無しの方で小さな音が鳴った。



木の葉が落ちてきたんだろうと思っていたのだが、




『ひ、』

「何だよ変な声だして」






『っぎゃああああ―――――――!!!!!!』


「うおっ!!!?」




名無しの色気の欠片もない悲鳴と共にオレの視界はぐるんと替わった。





「…名無し、これは一体どういう状況だ」




はたからみればオレは名無しに押し倒されているようで、本来ならばオレが…って、いや、違う、そうじゃない。




『む、虫が…』

「虫?」




相変わらず名無しはオレの上で、オレにしがみついたまま話を続ける。




『さっきの風で木から虫が落下してきて多分、頬にかすった…』



「名無しって虫ダメだったか?」



『いや、ダメじゃないけど人が気を緩めてる時に落ちてくるのはダメだよね…精神的ダメージがあるよね…』



「あーはいはい怖かったなーよしよし」




すぐ下にある頭を撫でてやると名無しは何処か恥ずかしそうに、ゆっくりと身体を起こした。




『お、お騒がせしました…』



「よっと」




オレも腹筋を使って一気に身体を起こしたのだが、
名無しは、再び横になる体制でオレの方へと近づいた。





「…名無しさん」




『何ですかユーリ君』





「普通逆だと思うんだがな」





何をされているかというと、





所謂膝枕ってやつ。




しかも、オレのに名無しが。






『いや、ここなら虫が落ちて来てもユーリに落ちるかなーなんて』

「最低だな」




名無しのでこをパチンと叩いてやると名無しは、痛いと言いつつ笑った。




『先に寝たもの勝ちってことで!いい時間が来たら起こしてね!それじゃおやすみー!』






「…はいはい」




こういうのは今に始まったことでもないし、


名無しに振り回されるのは案外嫌じゃなかったりする。





――――「…ねぇ、もしかして青年達って付き合ってる?」





ふいに昼食時におっさんに言われた一言を思い出した。





「付き合う、ね」





ぽつり、
誰にも聞こえない声で呟いた。




幼馴染みであり、旅仲間、そしてもうひとつの存在である名無し。




この気持ちを言葉にするのは簡単だが、伝えるのはオレには難しいのかもしれない。




「……っと」




再び大きな風が吹き抜けて

名無しの顔にかかった髪をよけてやった。





「とうに自覚してんだよ、オレは」






今日も空は青くて、
多少強いが風も気持ち良い。

オレも自分の瞼が重くなるのを感じた。










(随分面倒な関係だな)

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木から虫が落ちてくるのは本当ない。
虫嫌いじゃなくても本当ない。

20120623.haruka

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