互恋心




『あと買い忘れはない…かな』




買い物帰りに街中を歩いていると子供の姿が視界に入る。



街中で子供を見るのはいつものことだけど、何か様子がおかしい。




「うう、あぶないよ…」

「だいじょうぶだよ!」




女の子の声の主は見当たるが、大丈夫だと言った少し遠い声の主が見つからない。


確かに声は聞こえるのに。

私は遠く目を細めた。




『嘘でしょ…!』




待て待て待て待て!!


どうしてあの男の子は結界の外に居るの!?


私は買い物袋を投げ捨てて一目散に男の子の所へと向かった。




『ちょっと!何やってんの!死にたいの!?』

「だってあの魔物があいつの大事なぬいぐるみをもっていったんだ」


『ぬ、ぬいぐるみ!?』



何処にあるのかと魔物を凝視していると男の子は「もう取り返した」と、自分の腕の中にあるぬいぐるみを見せてくれた。




『…そう』


「お姉ちゃん!」
『!』



ほっとしたのも束の間、そんな会話を無視して魔物は私達に向かって突進する。



『っっっ!』
「わあっ!」



男の子を押しやった勢いで彼の手からぬいぐるみが離れてしまい、それは突進する魔物の方へと飛んだ。




このままでは―…




『くっそ』





ぬいぐるみに手を伸ばしてなんとか腕の中に入れることは出来たが、私の背中は丸空きだ。



ガッッ




『うぐっ!』





思いきり魔物に突き飛ばされる。




あぁ、痛い。
ひどく痛い。





「お姉ちゃん!」

『大丈夫…。あんたの事は絶対守るから』




駆け寄ってきた男の子にぬいぐるみを渡した。



背中に触れるとぬるりと生温かい感触があって、

その手は赤に染まっていた。




絶対に守る、とはいったものの。

護身用の短剣しかない上に守りながらの戦闘は難しい。




かと言って男の子をひとり結界の中へと走らせるのも危険だ。
『!』




辺りを見回すと丁度子供が隠れられそうな岩影を見つける。

無駄かもしれないが、自分を影にしてそっと誘導する。




この短時間でお互い随分と傷だらけだ。
…情けない。




『ごめんね。怖くて痛いのに泣かないなんて流石男の子だね』




『お願いだからしばらくそこでじっとしてて』


「お姉ちゃんは…?」





私はその質問に答えることなく、男の子の頭を撫でて魔物目掛けて走り出した。




もうなりふり構っちゃいられない。

頼れるのは自分だけ。



私の後ろには幼い大事な命あるんだから。

骨の一本や二本くれてやる。


私が駆け出したのと結界の中にいる女の子が叫んだのはほぼ同時。





『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!』
「だれかたすけて――――!!!」





ガキィィィン






私の短剣は魔物には届くことはなかった。









「なんで短剣ひとつで結界の外に出てんだ?危ねえだろうが」





『ユーリ…』





私は聞き慣れた声と見慣れたその姿に唖然としてそのまま後ろに尻餅をついた。





――――――――
―――――
―――






あれから魔物はユーリの手によってあっさり退治された。



「ごめん…なさい…」



男の子は私とユーリからお叱りを受けることになる。




「…けど、大事なモン取り返す為に結界の外に出た勇気はすごいと思うぜ」



そう言ってユーリは落ち込んでいた男の子の頭を乱暴に撫でた。



『ぬいぐるみ取り戻せて良かったね』
「うん、」



あのぬいぐるみは、彼女のお父さんが買ってくれた大切なものだったらしい。

どういった経緯で結界の外へと行ってしまったのかはわからないが、


無事に彼女の手元に戻ったのだ、聞かないでおこう。




『さ!あんた達はお家かえりな!』

「お姉ちゃんは?怪我してる…」



『え?私?私は大丈夫!このお兄ちゃんが居るから!』「それに姉ちゃんは姉ちゃんで反省しなきゃならない点が沢山あるからな。たっぷりオレが叱っとく」


『はい!?』




「お姉ちゃんっお兄ちゃんっほんとうにありがとう!」

「ヒーローみたいだったよ!」



「そいつはどーも」
『あはは』



ヒーローだなんて言葉をもらって思わず笑ってしまった。




私達は手をふって別れた。





「ほら」
『はい?』




ユーリが私に背中を向けてしゃがみ込んだ。




「まともに歩けないんだろ?医者に診てもらうぞ」



オレ治癒術使えねーし、とすこし不満げに言う。




『え、けど私重いよ』

「今更」

『ひ、ひどっ!』

「嘘だよ。おらっ」

『うああっ』



片手を捕まれて、その手はそのままユーリの肩へと乗せられた。



「よし、行くぞ」



『ユーリ』
「なんだよ」





『…恥ずかしい』

「おまえ、見るからに怪我人だから大丈夫だ」
いや、そうなんだけど!そうじゃなくてだな…!




「名無し」



ユーリの体温っていうの?それを直に感じたのは本当に久しぶりで…




「名無し!」
『はい!?』




「あの時、オレが行ってなかったらどうしてたんだよ」

『確実にあの世行きだったね、あはははは』

「あー笑えねぇ、全然笑えねぇな」



『ユーリ、あの、もしかして…もしかしなくても怒ってる?』




「さあな」




いやこれ完璧怒ってる。



『心配かけてごめんなさい…でも、助けてくれてありがとう』



するとユーリは一度立ち止まって、よいしょと体制を整えた。




「…はあ、まぁ無事だからよかったけどよ」



いや、こんな状態じゃ無事って言わねぇか、と乾いた笑い方をした。





「こんなお転婆の面倒を見てやれんのはオレくらいしかいねぇな」


『…仰る通りです』




「ま、おまえがオレを必要とする限りはずっと面倒みてやるさ」


『…うん』




男の子は私達をヒーローだと行ってくれたけれど、私にとってはあの時のヒーローはユーリだ。

それはいつだって。




「なんだよ、随分と甘えただな」

『…怪我人なもので』

「…ま、そういうことにしておきますか」





私はユーリの肩に乗せていた両手を伸ばして、ユーリの温もりをより感じたのだ。








(一生、必要だよ)

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ユーリは、愛する人の幸せの上に自分の幸せがあるという考えのタイプ(…だったら萌えるよね!って話)

20120422.haruka

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