おまえだよ
!エイプリルフール
ある日の休日。
食料の買い物以外の予定は特にこれといって無い。
…ということで、私はいつもの様にユーリの家に転がり込んでいた。
ユーリの家は正直の所、自分の家よりも居心地が良かったりする。
それでしてご飯付きだ。
女として悲しくもあるけれど、自分で作るよりも美味しいんだよ、これが。
そんなユーリ特製のサンドウィッチをご馳走になっていると、ユーリが口を開いた。
「オレ、近々身を固めようかと思ってんだ」
肩肘を付いてケロリと言い出すユーリの顔面に、私のサンドウィッチの具が若干飛んだような気がしたが、本人に怒る様子が無いので無かったことにしておこう。
『…は!?何それ聞いてないよ!』
「いや、そもそも誰にも言ってねぇからな」
そりゃそうだろうとユーリは頷いた。
そっか、周りは誰も知らないんだ。………じゃなくて!
『え、で、だっ誰と!?』
「身近なヤツ?」
『身近…身近…………フレン?』
「確かに身近だが生憎そっちの気はねぇな」
『あはは、ですよね!すみませんふざけましただから笑顔で怒るのやめて下さい!』
身近、と言っても私の知らない人のようだ。
そもそも私の中のユーリの゛身近゛は彼くらいしか知らないのだから。
『何か実感わかないな…』
サンドウィッチの入った皿に手を伸ばしたものの、ソレを取らずに手を引っ込める私とは逆に、ユーリは皿からソレをひょいと取った。
「なんで眉下げてんだよ。幼馴染みのめでたい話だぞ?」
フレンならば、いつものとびっきりの笑顔でお祝いの言葉を述べるのだろう。
それに比べて私は酷いったらない。
『…おめでとう』
「おう。…で、なんだよ」
何か続きがあるんだろ?、と、ユーリは促した。
『ユーリが結婚する以前に付き合ってるのすら知らなかったし…もうこれからはユーリの家に行けないなぁって』
ああ、
こんなの全然お祝いの言葉なんかじゃない、
困らせるつもりはないのに、
本音が溢れ出てしまう。
『ユーリが幸せになるのは幼馴染みとして勿論すごく嬉しいよ』
―――だけど。
『嬉しいけどそれ以上に寂しいのも本当』
「…そうかい」
『うん、はは、ごめん、私最低だ』
とてもじゃないけれどユーリとは目を合わせられなくて自分の目線を下げた。
ユーリの表情を見るのが、すごく怖い。怒っているか。
それとも、呆れているか。
「……まぁ嘘なんだけどな」
『……はい?』
「いや、だから、嘘」
『意味がわからないんだけど』
何を言っているんだこの人は。
じゃあなんだ、私のさっきの子供みたいな発言はどう処理したらいい。
恥ずかしくて自分でもわかるくらいに顔が赤くなってきた私を見てユーリが笑う。
「去年名無しが言ったんだぞ?4月1日、騙せるモンなら騙してみろって」
『言った気もするけど…!でもさ!ついて良い嘘と悪い嘘があるよ…!』
そもそもユーリはそういう安い挑発は相手にしないものだと思っていた。
けれどどうしてか、ほっとしている自分がいる。
この気持ちは何を物語っているのかは、まだ。
「けど、全部が全部嘘ってわけでもねぇよ」
ユーリは再び皿に手を伸ばし、私にサンドウィッチを手渡してくれた。
「心に決めてるヤツが居るのは本当。そいつは全然オレの気持ちに気付いちゃくれねぇがな」
『え、それって私の知ってる人?』
「知ってるも何も」
ユーリは口端をあげて
私に向かって指をさした。
「おまえだよ」
(! …とかいって今日はエイプリルフールとか言うんでしょ!)
(嘘じゃねえよ。エイプリルフール面倒くせぇな)
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先走りエイプリルフールその2。
ユーリの手作りサンドウィッチが食べたくて(^q^)
20120328.haruka
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