君に人生最大の愛を
世界は変わった。
魔導器のない世界へと。
人々はまた新たに歩みはじめる――…
「カロル、オレ一旦帝都に戻ってもいいか?」
「うん、いいよ!何か用事?」
「名無しに会いに、だよね?」
「フレン、名無しって誰です?」
「もしかして青年の恋人とか〜?」
「まあ」
「……ええええええ!?うっそ!おっさん冗談で言ったつもりだったのに…嘘でしょ!?」
「ボクも知らなかった…なんか…意外だよ…」
「名無しさん…どんな方か気になりますね、リタ!」
「ええ、っていうか…物好きも居たものよね」
「お前等言いたい放題だな」
周りに失礼な事を言われながらも、オレはふと星蝕みの無い綺麗な青空を見上げた。
名無しは元気にしているのだろうか。
下町に置いてきた、オレの恋人。
旅立ちはあまりに慌ただしいものだった。
下町の連中にもみくちゃにされる中で、遠くに名無しの姿があった。
何か言うべきかとも思ったが、生憎その時はルブラン達に追われていた為にそれが叶わなかったのだ。
旅の途中で何度か下町に寄る機会はあったものの、名無しに会うことはなかった。会いにも行かなかった。
「あ!ユーリ!」
カロル達と別れて下町に戻るとオレのそばにはテッドが駆け寄ってきた。
「お、テッド。…名無し見てないか?」
「んー今日は見てないかな」
゛今日は゛ということはたまにはテッド達の所に来ているということだろうか。
…それも名無しに会いに行けばわかることだ。
「そっか、サンキュ」
「ユーリ!」
「ん?」
「名無し、ユーリが旅に行っちゃってから毎日寂しそうにしてたよ」
「あぁ、わかってるさ」
だから、
迎えに行ってくる。
そう伝えるとテッドは満足そうに走って行った。
彼女の家の扉を開けると、そこには窓に腰を掛けている名無しの姿があった。
今すぐに抱き締めたい衝動にかられたがそこは抑えて。
「名無し」
彼女の肩が少しだけ、揺れる。
「その、ただいま」
何かもっと違う言葉を掛けるべきなのだろうが、オレにはそんな能力は長けていない。
『………………』
だが、名無しはというと返事をすることもなく、ただ外を見つめたままで振り向きもしない。
まだ一言も声を聞いていない。
もしかして
…怒ってるのか?
「おい、名無し」
こっち向けよと肩を掴んでオレの方に身体を向けようとした瞬間―――…
ゴッ
「い゛っっ!」
オレの視界に沢山の星が散りばめられた。
頭突きをされたと知るのにそう時間は掛からなかった。
頭突きなんてするか、普通。
頭を抑えてしゃがみこむオレを気に掛けることなく名無しはその口を開いた。
『…今さら何よ!町が騒がしいかと思って出てみたら、可愛い女の子を連れて下町出ていくし!指名手配になってるし!もう帰って来ないかと思ったら真夜中に大怪我して帰ってくるし…』
「おまえ、あん時…」
―…ザウデの頂上から落ちて一度下町に戻った時、か。なんらかの形で接触していたのだろう。
『何か大変な事に巻き込まれてるのは嫌でもわかったわよ!…なのに今みたいに突然帰って来てさ!私、どうして良いかわからないよ!』
「名無し…」
『……ごめん。頭冷やしてくる』
部屋を飛び出した名無しの目から大粒の涙が流れていた。
全部オレを思っての涙なのは十分にわかる。オレが居ない間、どんな思いで居たのかも今のでよくわかった。
「はは…最低だな、オレ」
けれど、旅をする中で普通なら気づけないことを気付くことが出来た。
名無しに伝えなければならない事が出来た。
―…彼女を迎えに行こう、伝えに行こう。
名無しを探すのにそう時間は掛からなかった。
下町の噴水近くで下を向き座る名無しの隣に座る。
「名無し」
『ごめん、私あんなこと言うつもりじゃなくて、本当は』
「オレもごめん」
我慢の限界。
オレは名無しを力強く抱き締めた。
ずっと感じたかったこの温もり。
名無しはまた涙を流し出す。
『会いたかった、寂しかった』
「ひとりにして悪かった、心配させて悪かった」一度顔を上げる名無しと目があった。
袖元で涙を拭いてやるとオレの大好きなその笑顔で「おかえり、ユーリ」なんて言うもんだから、オレも少しばかり泣きそうになった。
「旅の中で気づいた事がある」
『うん?』
「お前の大切さ」
ふいに名無しに口付けて。
「一生、オレの隣に居て欲しい」
『え…それって』
「ああ」
君に人生最大の愛を
(もうちょとロマンチックな言葉なかったの?)
(悪いな、これが限界だ)
--------------------------------
「ユーリに頭突きしてみたい」その一言から生まれたもの。
プロポーズ台詞集なるものを読んでたんだけど色々楽しかった。
これが一番萌えた。(個人意見)
20120223.haruka
[back][ 37/86 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]