ネタ帳 | ナノ


竜型の魔物の大振りな攻撃を後ろに飛んで避けたアリーナが、後方に視線を向ける。その先にはうつ伏せに倒れて動かないクリフトがいた。アリーナを庇って火炎を食らったきり、彼は動かない。咄嗟に盾で防いだものの、服は焼け焦げて所々地肌が見えていた。きっと酷い火傷を負っている筈だ。加えて切り傷や打撲の痕もいくつか見える。
倒れる直前にかけられたスカラは、未だにアリーナを敵から護ってくれていた。詠唱が終わるか終わらないかというところで膝をついて静かに目を閉じたクリフトの表情が、脳裏に焼き付いて離れない。
目を閉じると瞼の裏に浮かぶ綺麗な笑顔を、アリーナはまだ傍で見ていたい。できることなら、それをずっと自分が守りたい。
笑顔を浮かべるクリフトを見る度に胸がそわりとむず痒くなるようなこの感情の名前を、アリーナはまだ知らない。


切れた頬から流れる血を手で乱雑に拭って、魔物に向き直る。キラーピアスを両手に構え直して地を蹴った。ザシュ、と肉の裂ける音がして辺りに血が飛び散る。耳をつんざくような断末魔を上げて倒れた魔物が、煙と共に跡形もなく消えた。後に残されたアイテムやゴールドに目もくれず、アリーナはクリフトに駆け寄った。

「クリフト!」
抱き起こして名前を呼んでも、眠るように閉じられた目が開くことはない。冬の凍てつくような寒さに晒されて、体は冷え切っていた。ミントスに向かう途中で何の前ぶれもなくふっと倒れた光景がフラッシュバックする。嫌な想像を振り払うように頭を振って、アリーナはソロに向かって大声を張り上げた。

「ソロ!ザオラルして!」
「言われないでもするっての。」
詠唱を始めたソロが、途中でふと詠唱を止める。何かを考えていたかと思うと、袋から世界樹の葉を取り出した。

「これ使え。」
「…いいの?」
「ザオラルは完全じゃないだろ。」
ソロの顔をじっと見ながら訊ねると、顔を逸らされた。飲ませたらお前が運んで来いよ、と口早に言って歩き出す。
すり潰す道具などないため、世界樹の葉を歯で食いちぎる。気の遠くなるような苦さに眉を顰めながら葉を噛み潰すと、アリーナはそのままクリフトに口づけた。歯列を割って口の中に葉を押し込むと、微かに体が反応した。

自分の温度が、少しでも彼に伝わればいい。体が温まって目を開けたら、彼はまたあの日だまりのような笑顔を向けて、アリーナの名前を呼んでくれるのだ。

(111201)

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