ネタ帳 | ナノ


誰に言われた訳でもなくただ漠然と、聖職者は飲酒をしてはいけないものだと思っていた。戒律で定められているとかそういった理由で、そもそも口にしたことがないのだ、と。
だから、酒を勧められたクリフトが「私、下戸なんです」と断るのを目にした時、ソロは少なからず驚いた。だって、自分が下戸と分かっている以上、クリフトは飲酒をしたことがあるのだ。

「なあ、神官って、酒飲んでいいの?」
「ええ、大丈夫ですよ。戒律では飲酒については特に触れられていませんし…もっとも、節度があるのが前提ですが。」
「じゃあ、クリフトも、」
「はい、一応飲んだことはありますよ。ただ、あまり強くないらしくて…」
「…らしくて?」
伝聞形に違和感を覚えて聞き返すと、クリフトが眉を寄せてばつの悪そうな顔をする。視線を宙にさまよわせてから、躊躇いがちに口を開いた。

「その……覚えてないんです。一緒に飲んだ方に、お前は絶対に酒を飲むな、と念押しされたんですが、理由は教えてくれなくて。…酒癖が悪かったんでしょうね、きっと。」
お恥ずかしい限りです、と続けたクリフトは確かに酒に強そうには見えなかった。話を聞くうちにソロの中の好奇心が首をもたげてくる。酔うとクリフトはどうなるのか。日頃穏やかな人間ほど心の内が透けて見えないものだ。笑うのか、泣くのか、はたまた怒るのか。
猫をも殺すという感情に歯止めがかけられず、自然に言葉が口をついて出た。

「どうなるか、知りたくないか?」


「ですが…」と言葉尻を濁らせたものの、知りたいのはクリフトも同じだったらしい。どんな状態になってもしっかりと部屋まで運ぶことと他人に口外しないことを約束するとあっさりと首を縦に振ってみせた。

さすがに神官服で酒場に行くのは、とカットソーとスラックスに着替えてから、大通りから外れた場所にある酒場のドアを押す。入った瞬間店員の女の子の甘ったるい声が耳をついた。そういう店に入ってしまったのかと一瞬体を強ばらせたが、よく見れば客の年齢や性別は様々で、皆楽しそうに話している。
運ばれてきた透き通った青いカクテルがライトに反射するのを見たクリフトが綺麗、と呟いた。ふ、と息をついてグラスを手に取ると、そのまま流れるような所作で傾けた。青い液体が重力に従って滑っていく。


――さて、どうなるのだろうか。
二杯目のカクテルを頼みながら、ソロは一人ごちた。

(111129)

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