ネタ帳 | ナノ


「しゅうまつがやってくる!」のクリフトサイドっぽい何か。


着替えるように命じられた真っ白なローブは、絹で出来ていた。白い壁に白い床。白木造りのベッドに、白いシーツ。白く塗られた机には、ガラスの水差しとグラスが一つずつ。この部屋には、色が無い。これ見よがしに置かれた聖書の深緑が、唯一の色だった。
白は汚れがない、清らかな色。神聖なイメージを作り出すのに打ってつけの部屋だ。
食事は僅かな量を日に一回。どうやら衰弱死させるつもりらしい。
――綺麗に死なせたいなら、毒でも盛ればいいのに。
出されたパンを千切りながら物騒なことを考えている自分に気づき、思わず苦笑した。できるだけ自然に死ぬ方がいいと考えているのか、直ぐに死んでしまっては効果が薄いのか。別に、どちらでもよかった。
逃げようと思えば逃げれる。旅の道中では回復に回ることが殆どだったが、部屋の前にいる見張りぐらいなら素手で倒せる自信があった。腕利きの兵士ならまだしも、相手は戦闘の経験も無い神父や司祭だ。
ただ一般人に手をあげる気など微塵もなかったし、何よりここで自分が逃げてしまってはサントハイムが責任を問われることになる。それは避けたかった。

連れてこられてから、十日以上が経った。差し込む光で昼か夜かがかろうじて分かるものの、日付の感覚は既になかった。次第に空腹感を感じなくなり、遂に体が噛み砕いたパンを嚥下するのを拒絶したとき、そろそろ限界かな、と唾液と共に吐き出されたパンを見ながらどこか他人ごとのように思った。それにしても、作ってくれた人に申し訳無い。
体は与えられた僅かな栄養を生命の維持に最低限必要な所に優先して送るようで、目も耳も殆ど機能していない。全く苦しくない、と言えば嘘になるが、既に生に対する執着がなくなっていた。生きようが死のうが最早どうでもいい。これでは聖職者として失格だ。
心残りがあるとすれば、共に旅をした仲間に何も言わずにここに来たことだろうか。適うならば、もう一度皆に会いたい。オレンジ色の鮮やかな髪を揺らして笑う姿が瞬間的に脳裏を過ぎった。

ガシャン、と何かが割れるような凄まじい音が間近でした。音のした方に顔を向けると、ぼんやりとした視界に翠とオレンジが映り込んだ。その奥には紫も見える。いくつもの聞き慣れた声が自分の名前を呼ぶのに思わず笑みが零れた。

ああ、もう、死んでもいい。


(皆さんが笑っていてくださるなら、私は消えてしまっても構いません。)

(111209)

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