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(マギ|シャルスパ)

ヒュン、と音を立てて剣が空を切る。マズいと思った時には既に遅く、深い紅色の髪の房がふわりと風に舞った。歪になった髪型を見て反射的に剣を引いたシャルルカンに対して、当の本人は上目で前髪を確認しただけで次の攻撃を繰り出してくる。正確に言えば出血がないかを見ただけで、不自然に切られた前髪のことなど、恐らく気にも留めていない。自分だけが他事を考えているのは危険だと判断して、シャルルカンは目の前の試合に集中した。



「ごめん!」
上体を折り曲げて謝ると、スパルトスは相変わらずの無表情で少し首を傾げただけだった。
「何がだ?」
「いや、だからその、髪切っちまって…」
「相手が女性ならまだしも私は男だ、別に気にすることじゃない。」
淡々と述べるスパルトスは髪に何の思い入れもないらしく、自分の髪を摘みながら「折角だからこれを気に切ろうか、」などと言っている。

「お前が気にしなくても、俺が気にするんだよ。」
斜めに切られた前髪は、肩甲骨の下辺りまで伸びた後ろ髪と合わせるとやたらとミスマッチだ。風が吹く度にさらさらと靡くそれが好きだったのに、それを自分が奪ってしまったと思うと泣きそうになる。

「お前の髪、好きだったのに。」
言いながら髪に手を差し入れて梳くと、目の前の無表情が瞬く間に赤く染まる。口元に手の甲を押し当てて半歩後ずさったスパルトスの反応に頭がついて行かず「え、あ、」と意味をなさない声を漏らすと、「……すまない」と蚊の鳴くような声で謝られた。

「…その、他人と触れ合うのに、あまり慣れていなくて、」
顔を真っ赤にして俯くスパルトスを見て、そう言えば彼の祖国は厳しい戒律がある国だった、と思い出す。スキンシップらしいスキンシップが悉くよろしくないとされた国で育ったのだから、髪を触られるのだって慣れていないのだろう。スパルトスはそれきり黙り込んでしまった。気まずい空気が流れるのに耐えかねて口を開く。

「お詫びって言うのもおかしいけど、お前の髪切らせてよ。整えないと、見えづらいだろ。」

ぱちぱちと瞬いた後、「じゃあ、頼む」と言ったスパルトスの顔はいつもの無表情だった。先程まで顔を赤らめていたのが嘘のようだ。
シャルルカンは「ジャーファルさんに鋏借りてくる!」と言い残して、その場から逃げるように駆け出した。

(111101)

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