ネタ帳 | ナノ


「潰れちゃったのよ。連れてってくんない?」
どうせ直ぐ帰るんでしょ、とマーニャはウィスキーの入ったグラスを傾けた。カラン、と氷が涼やかな音を立てる。
隣の席では、顔を赤くしたクリフトが机に突っ伏して寝息を立てていた。ピサロは眉を顰めてみせたが、マーニャは気にも留めずにつまみのクラッカーに手を付けている。不快感を隠そうともしないピサロに目線だけを向けると、にこりと人好きのする笑みを浮かべて「じゃ、よろしくね」と手を振った彼女は、どうやら確信犯のようだった。
酔い潰れたというクリフトに目をやる。あどけない寝顔を晒す若い神官は、本当に酔っ払っているらしかった。人を騙すような演技をする人間でないことはピサロにも分かっているが、マーニャが絡むとどうも信用できない。どこかの国の秘宝だという変化の杖やら、形態模写呪文を使う勇者やら、色々な可能性が考えられる。非常に厄介な集団である。

起きる気配のないクリフトを横抱きにすると、「随分待遇いいじゃない」とマーニャが口角をつり上げた。「吐かれた時に面倒だ」と返すと「ふうん」とだけ言って意味深に笑ってみせる。構うと碌なことにならないのは明らかだ。何も言わずに酒場の戸を押し開けると、背後から酒の追加を頼む声が聞こえた。まだ飲む気か。


ざくざくと草を踏む音だけが響く。酒のせいかいつもより体温が高かった。とは言えこの時期は冷えるようで、しばらくするともぞもぞと動き出した。「ん、」と声を漏らしたクリフトは収まりのいい位置を見つけたのか、再びくうくうと寝息を立て始める。いつしか腕はしっかりとピサロの首に巻き付いていた。

男が男に横抱きされているという構図に宿屋の主人は一瞬怪訝な表情を浮かべたものの、片方が酔い潰れていると分かると直ぐに部屋の鍵を渡した。首に巻き付いたままのクリフトを部屋の簡素なベッドに寝かせると、僅かに身じろいでうっすらと目を開ける。どこか不機嫌そうな表情で「寒いです」と言ったクリフトは肌に纏わりついていた体温が離れていったのが不満だったらしい。普段滅多に意見を言わないクリフトの明確な意思表示に面食らっているうちに伸びてきた手によって、ピサロはあっさりとベッドに引き倒された。
男二人が一つのベッドにいるのは相当狭いというのに、大して気にも留めていない。胸に頬を擦り寄せて満足したように笑うと、クリフトはまた眠りに落ちていった。


(111128)

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