case:K.Oshitari 2



「謙也君、お疲れ様ー」
それから、英語のセンセの説教受けて、解放されたのは1限の休み時間が終わる3分前。
10分の休みの半分以上使うとか、アイツ絶対鬼や鬼!

重苦しい溜息と共に自分の席に戻った俺に、ひながとびきりの笑顔を向けてくれる。
それだけで盛り下がっとった気分が浮上するあたり単純やな、俺。
「災難だったねー」
「ホンマやで。ちゅうかしら、」
「何や?」
災いを起こした張本人に文句を言ってやろうとすれば、女の子やったら一発で昇天しそうな極上の笑みを向けられる。
「……ナンデモナイデス」
それを見た俺は白石に対する文句を全て飲み込んだ。
やって、笑うてるんは口元だけで、目が据わってんねんもん!
背後に黒いもんが見えるのやって、気のせいやないはず。
マジ、怖っ!
あまりの恐怖に思わず片言の標準語になってしもうたわ。

「お疲れの謙也君に良いものを進ぜよう」

そんな俺の心中を知ってか知らずか、ひなが何故か時代劇紛いの口調で差し出したのは。

「これは……、チョコ、か?」
「そだよー」
丁寧にワインレッドの包装紙でラッピングされた四角い箱。
「今日の朝練休ませて貰って作ったんだ」
しかも手作りときた。
「お、おおきに」
内心飛び上がりそうなくらい嬉しかったけど、平静さを装ってお礼を言うと、ひなもどういたしましてと返してくれた。
包装を解いて、中身を食べようとしたけれど、ちょうど始業のチャイムが鳴ったからそれを鞄にしまおうとした……、んやけど。
「…………白石、手離してくれへん?」
隣の席から伸びた手が、がっしりと俺のチョコを掴んどってどうしようもない。
「謙也、これ寄越し?」
普段の丁寧な言葉遣いも何処へやら、めっちゃ恐ろしい笑顔と低い声で白石が呟いた。
「い、嫌や」
正直背筋凍るかと思うくらい怖かったけど、これだけは譲れへん。
白石に負けじと箱を引っ張る。
「ええから寄越し」
「嫌や」
「寄越せ」
「いーやーや」

がんっ。ごんっ。

取り合いを繰り広げていると頭に衝撃が走る。

「謙也に白石、お前ら今授業中やってわかっとる?」
振り返るとオサムちゃんが指導要録片手に頬を引き攣らせとった。
「授業の邪魔んなるようやから、コイツは没収な」
そして俺の手から虚しく奪われていくひなのチョコ。

肩を落として授業を受けとると、右側から再び小さく折り畳まれたメモが届く。

『やっぱ校庭30周な』

だから、
「なんっっっでやねんっ!!」
思いっきし叫んだ俺が再び廊下に立たされたのは言うまでもない。



-4-

[ | ]

back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -