case:K.Oshitari 1



バレンタインと言えば、女の子が好きな男の子にチョコを渡す日。
自慢するわけやないし、白石や財前ほど多くもないけど、俺かてそれなりに数は貰えるほう。
それが嬉しいか嬉しくないかと問われたら、答えは前者。
チョコの数が男を決めるとは思わんけど、自分に好意を抱いてくれとる子が多いんは悪い気はせん。
それに今年は義理しか貰えんとわかっとっても貰いたい相手もおるし。

「ちゅうかむしろ謙也さんの場合、義理チョコしか貰えてへんのちゃいます?」
「のわっ!?」

思考を巡らせながら昇降口へ向かっていると、朝練をすっぽかしたクセに大きな欠伸をかましよる財前が現れた。
急に声掛けてくるから、変な声出してしもたやんけ!
……って、今コイツ俺の心読みおった!?

「別にそれくらいで驚かんでもええでしょ?だからヘタレ言われるんですよ」
「うっさいわ!」

財前は言いたい放題言って、別段悪びれる様子もなく一足先に校舎の中に入って行く。


ええもん、ええもん。義理やって。
ちゅうかあのチョコたちの中にもいくつか本命はあったはずやし。
もしかしたら渡す子らが照れ臭くて義理やって言うだけかもしれへんし。
そう、俺に惚れる子はシャイなんや!

「……自分で言うてると余計虚しくなるな……」
「おっはよー!」
アホな思考回路に終止符を打って、小さく漏らした溜息は元気な声に掻き消された。
教室の扉を開ける手前で声を掛けてきたのは、俺らテニス部のマネージャーをしとる五十鈴川ひな。
彼女こそ俺がチョコを貰いたい人物であったりもする。
「謙也君、なんか暗い顔してたけど、大丈夫?」
「え、あ、あぁ。大丈夫や、問題あらへん!」
暗い気分なんぞひなの顔をみれば一発で吹き飛ぶわ。

1度言うてみたい気もするけど、白石にバレたら後が怖いのでこの言葉は飲み込んでおく。

「そう?ならいいんだけど」
小首を傾げて教室へ入るひなの後に続いた。

ひながこの学校に転校してきたんは、2学期の最初。
担任が紹介したときに、俺は彼女に一目惚れした。
ついでにいうとオサムちゃんの指名だか計らいだかようわからんけど、マネージャーに就任してくれた時は、心ん中で拍手喝采しとったりした。
それくらい、好きな相手だから必然的に目で追っとった。
そして、気づいた。
彼女は白石を好きなんやって。

10月の終わりに2人が付き合いだして既に3ヶ月半。
ひなに対する恋心も次第に薄れて、今は友達としての「好き」に変わりつつある。
けど、やっぱり彼女からチョコを貰いたいなと考えてしまうんはとめられへんわけで。
斜め前に座るひなに、期待を込めた視線を送っているとその後ろ(つまりは俺の右隣)に座る白石から「見すぎや」とチョップを食らった。
因みに白石の席にはひなが渡したらしい大きな紙バックが、色とりどりの包装紙を覗かせながら机の脇に掛かっとる。

ええやんか、みつめるくらい。減るもんでもなし。
ちゅうかひなを彼女にしとるクセに、チョコ貰いまくっとるお前になんのかんのと言われたないわ!
あの袋以外にも、部室にダンボール2箱分あるんやし。

「だっ!」
そんなことを考えとったら、横から何かが飛んできた。
B5のノートを丁寧に固くなるまで小さく折ってあったそれに書かれていたのは。

『謙也、午後練校庭20周』

「なんっでやねんっ!」
「喧しいわ、忍足!廊下に立っとれ!」
思いっきしつっこんだら、英語のセンセに一喝喰らった。
あぁもう、ホンマに何でやねん!



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