case:H.Zaizen 1



「と、いうわけなんや……」
屋上で購買で買うてきたパンを口にする俺の横でめそめそしとんのは謙也さん。
昼休みになるとほぼ同時に(1年と2年の教室じゃ階も棟もちがうのに)「ざーいぜーん!!」と泣き叫びながら走ってくる金髪を目撃した瞬間、逃げよと思うたけど、流石浪速のスピードスター、逃してはくれへんかった。
「ふぅん」とだけ相槌を打つと、「反応薄っ、冷たっ!」とかなんとか騒がれたけど、ここは敢えて無視。
なんやねん、俺より先にちゃっかりひな先輩からチョコ貰いおって。
まぁ、間違いなく義理チョコだから別にええけど。

「って、その義理チョコを部長にとられたんですっけ」
「まぁ、正確には白石にとられそうになったとこをオサムちゃんにかっさらわれたんやけどな……」
細かいことはどうでもええわ。
「しっかし、義理チョコすら許さへんって部長って意外と心狭かったんっスね」
「やろー!?あれから、ホンマに大変やったんやで、俺!3限の体育なんか、」
「その話はさっき聞いたんでもうええっスわ」

ひな先輩からチョコ貰った謙也さんは、部長と取り合いになってオサムちゃんに叱られた(勿論チョコは没収)挙句、3限の体育は部長にサッカーでわざとボール当てられるし、4限の化学は故意にちょっとキケンな薬品かけられそうになるし、ととにかく大変やったらしい。
とりあえずご愁傷様と言うとくわ、心ん中で。

「ちゅうか謙也先輩、職員室行かんでええんですか?」
謙也さんの話を反芻して思ったことを口にする。
「は?」
「オサムちゃん、謙也さんのチョコ食べとるかもしれませんで?」
それを聞いた瞬間、謙也さんの顔が一気に青ざめる。
おぉ、おもろ。
「そ、それだけは嫌や……!」
半分くらい残っとった焼きそばパンを丸ごと口に放り込んで、謙也さんは勢い良く屋上を飛び出していった。


***


「ふぅ」
これでようやく静かに食事ができる。
謙也さんおると騒がしすぎて食べるのに集中できひんからな。
ようやくひとつめのパンを食べ終えて、今から2つめ。

「しっかし、部長も鈍いなぁ」
謙也さんの話聞く限り、全く気づいてへんみたいや。
ひな先輩の気遣いに。

何とか昼休み終わるまでに食べ終われそうやと思いながら、ひとり呟いた俺の言葉は澄んだ冬空に融けた。



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