case:K.Shiraishi 1



今日は2月14日。
世に言うバレンタインデー、つまりは女の子たちがこぞって好きな相手にチョコレートを贈る日。
義理でもなんでもええからとにかく女の子からチョコを貰いたいと躍起になる男も居れば、好きな子からのチョコを待つ男も居る。

俺は当然ながら後者な訳やけど。


「………………………」

本日週明け月曜日。
現在時刻は朝7時。
因みに天気は晴れやけど、今冬1番の寒波が下りてくるとかで、めっちゃ寒い。

それやのに。

「はぁ〜。白石はあいっかわらず、ごっついなぁ」
俺の隣で感嘆を漏らした謙也をとりあえず睨んでおく。(「なんでやねんっ」by謙也)
部室の入口を塞ぐようにして置かれたでっかいダンボール箱が2つ。
どちらの側面にもピンクとかカラフルな色で『白石君へ』と描かれている。

「……これ、どないしよう?」
「とりあえず動かさんと、部室へ入れもせえへんやろう」
「せやなぁ……」

銀が返した正論に、仕方なく頷いてその箱を部室に運んだ。


正直、ひなと付き合う前はバレンタインなんて大嫌いやった。
毎年毎年毎年毎年、朝下駄箱を開けると、漫画みたいなチョコの雪崩が起きるし、教室へ行ったら行ったで、机の上はチョコの山。
全部食べたら健康に悪い気するねんけど、相手に返すのも申し訳ない。
そんなジレンマに悩まされるだけの日やったから。
因みに、一応全部家に持って帰って、家族や近所の人らにもお裾分けしながら消費するのが例年のパターンやったりする。
せやけど今年はひなという素敵な彼女が出来たから、誰も渡して来いひんとふんどった。
しかし、どうやら考えが甘かったらしい。

「はぁ〜」
「大丈夫?」
昇降口で盛大に溜息を吐きながら靴を脱いどると、眉尻を下げたひなと目が合うた。
「蔵ノ介、調子悪いの?」
「大丈夫や、問題あらへん」
疲れた顔を見せへんようにして、下駄箱の扉を開けると。

ずさあぁぁぁぁ

例年よりも凄まじいチョコの雪崩。
その激しさといったら、びっくり箱か!とつっこみたくなるレベル。
「ひな、あのなっ、これは、」
足元で見事な山となったチョコレートたちを隠して、言い訳を探す。
彼女であるひなにとっては、気持ちええもんやないだろうから。
けれど、
「蔵ノ介ってやっぱりモテるんだねぇ」
と、ひなはどこか感心したような声で言った。
それどころか、「はい」とこちらに差し出されたのは。

「……紙袋?」
それもどっかのデパートで貰えるような適当なものではなく、ちゃんと店で購入したと思われる丈夫そうなもん。
しかもどこぞのテーマパークでお土産買うて来るつもりか、と言いたくなるサイズ。
柄はキャラクターもんではなくモスグリーン地のタータンチェックで、ご丁寧に持ち手のとこに『蔵ノ介』と書かれたタグまでついとるとこが、そういうのとは違うんやけど。

「それ、全部持ってくの大変でしょう?だからあげるよ」
「え、」

平然とチョコの山を指差すひなに戸惑いを隠せへん。
他の女の子からのチョコ受け取ってもええんか?とか、怒らんの?とかひなに聞きたいことはぎょーさんあるのに、彼女はそんな俺を置いて、ひとり教室へ向かった。

「どないしよ、これ……」
今年はひなからのチョコしか受け取らん。
それが目標でもあったのに、当の本人の手によってその計画は潰されてしもた。

チョコの山と手渡された紙袋を交互に眺めて立ち尽くす俺を嘲笑うかのように、予鈴が響いた。



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