はぐれた人と



「ほな、そろそろ並ぼか」

あれから、蔵ノ介と2人で除夜の鐘をついたあと、無事他の面々とも合流した私たちは、神職の人たちが振舞ってくれる年越し蕎麦を食べたり、甘酒を飲んだりして暖をとっていた。
「よっしゃ、ワイが1番乗りしたるでぇー!」
「待ちぃや!」
張り切って駆け出そうとする金ちゃんの襟首を蔵ノ介が捕える。
「金ちゃんは勝手に行動したらあかん。さっき色んな人に迷惑かけたばかりやろ?」
みんなと離れていた私たちは知らなかったけれど、今年もやっぱり金ちゃんが問題を起こしたらしい。
その場に居なかった蔵ノ介の代わりに健二郎君と小春ちゃんが方々に頭を下げていたと、銀さんが教えてくれて、私と蔵ノ介は2人で顔を見合わせた。
「えぇー……」
「言うこときけへんのやったら、毒手やで?」
不満げに口角を下げる金ちゃんに、蔵ノ介は口元だけでにっこりと笑って左腕の包帯を解き始める。
「わ、わかった、わかったから毒手だけは堪忍!」

結局どこまでも四天宝寺らしい1年の締めくくりに思わず笑いがこみ上げる。

「ほらひな、笑ってんと行くで」
「うん」
金ちゃんの躾を終えたらしい蔵ノ介が差し伸べてくれた手をとって、みんなと一緒に拝殿のほうへ向かった。


***


「うわっ」
年が変わるまであと1時間を切っているせいか、さっき神社についたときよりも混雑度が増していた。
「すっごい人やなぁ。ひな、はぐれるんやないで」
「う、うん」
人波にもみくちゃにされながら、蔵ノ介の手を離さないようにぎゅっと力を込める。
「あっ、」
けれど、間に割り込んで来た人にぶつかった反動で、2人を繋いでいた手はあっさりと引き離されてしまった。
「ひな!」
「蔵ノ介!」
お互いに手を伸ばしあうものの、人ごみに邪魔されて届きそうで届かない。
それどころか、2人の間に人がどんどん入ってきて、だんだんと距離ができてしまう。
「すみません、どいてください!」
人を掻き分け掻き分け、進みながら蔵ノ介の手を探す。
ほんの少し向こうにミルクティ色の髪が見えたから、思いっきり手を伸ばして叫んだ。
「蔵ノ介!」
伸ばした手をぎゅっと掴んでくれる力強い腕。
それに引かれるまま、参拝者の列から逸れて行く。
「ど、どこ行くの!?」
周りのざわめきが煩くて聞こえないのか、私の疑問に答えてはくれない。
「お願い、待って……!」
歩く速度もさっきよりずっと早くて、こけないようにするだけで精一杯。
どうしたのだろうという私の疑問は、人波を抜けた瞬間に答えが出た。

「大丈夫ですか、ひな先輩」

肩で息をする私に掛けられた声は、蔵ノ介のものではなかった。
驚いて顔を上げると、目の前に居たのは。


「光君……!?」




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