探す人



完璧にひなとはぐれた。
もみくちゃにされながら、必死に伸ばした手は届くことはないまま彼女を見失ってしまったんや。

「ワイが探してきたるで!」
「あかん!」
威勢よく参拝の列を飛び出そうとした金ちゃんの襟首をむんずと掴む。
ぐえっと、カエルが潰れたような声が聞こえたが、あえて無視。
「金ちゃんまで迷子になったら大変やわ。俺が探してくる」
残りのメンバーにくれぐれも金ちゃんから目を離さんように言い置いて、参拝者の列を掻き分けひなを探しに走る。
さっき見渡した面々の中に財前の姿もなかったから、多分一緒におるんやろうとは思うけど。
自分の彼女が、同じ部の仲間といえど他の男と2人っきりというのは、やはり気分がええもんではない。

「ひな!」

大丈夫やろうとは思うものの、早く彼女を見つけたい一心で名前を呼んだ。


***


「繋がらないなぁ……」
蔵ノ介のケータイに電話をしてみるものの、年明け間近のせいか一向にコール音すらたててくれない。
「こっちもあかんっスわぁ」
小春ちゃんのケータイにかけてくれている光君も同じ状況らしい。
ほんと、どうしよう。
もうすぐ年が明けてしまうのに。

「やっぱり私、あの列に戻る!」
どこら辺にいるかわからないけれど、あの中を歩き回っていれば見つかるかもしれない。
「やめといたほうがええですよ。がむしゃらに動いたって無駄に体力消耗するだけですわ」
「でも!」
本当にあと少ししたら日付が変わってしまう。
さっき蔵ノ介と新年の願い事、一緒にしようと約束もしたのに。
「……ひな先輩は、やっぱり部長と年越ししたいん?」
焦る私に光君はなんとも言えない視線を寄越す。
「んー、それは、まぁ。新しい年のはじまりは好きな人と、一緒のほうが……」

……うわ、自分で言っててだんだん恥ずかしくなってきた。

「俺やったら、あかんのですか?」

「え?」
真っ赤になりながら視線を下へ下へと下げた私に掛けられたのは、意外な言葉。
思わず光君のほうを振り仰ぐ。
「先輩と年越すの、俺やったらあかんの?」
ゆっくりと光君が近付いてくる。
寒さのせいかとても冷たい彼の掌が頬に触れる。
逃げなくちゃ、と思うのに逃げられないのは、光君が今にも泣きそうな顔をしてるから。
こつん、と互いの額がぶつかった。
「俺、ひな先輩んこと……」
光君の黒い瞳に目を見開く私が映りこんでいた。
「ひ、かる、君……?」
彼の言葉の先を聞いてはいけない気がして、震える声で名前を呼んだ。


「…………なんてな」

すると、彼は一瞬驚いたような顔をした後、すぐにいつもみたいに意地悪く口元を歪める。
「先輩ドキドキしたっしょ?」
「なっ、からかったのっ!?」
その表情と言葉で、彼が冗談を言っていたのだと漸く悟った。
「やって先輩からかうとおもろいんですもん」
振りかぶった拳も容易に受け止められ、にやにやと笑う光君に逆に文字通り振り回される始末。
「もぉーっ!」
「そんなむくれた顔せんといて下さい。お詫びに俺が部長連れてきたりますわ」
「え?」
きょとんとする私の目の前で、手近にあった腰掛けるのにちょうどいい大きさの石の上に、さっと手持ちのハンカチを敷いてくれる光君。
「慣れん着物で動き回るんは大変でしょ?ひな先輩は部長が来るまでここで待っとって下さい」
私の両肩に手を置いて、すとんとそこに座らせると、彼は「絶対そこ動かんといてくださいよ」と念を押して、人混みのほうへ向かって駆けていった。



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