願うのはキミの幸せ



「すんません、退いて下さい!」
人混みを押し退けながらひなを探すけど、一向に見つからへん。

あぁ、もう!年明けはもう目の前やっちゅうんになんでやねん!

焦りと苛立ちが募る中、コートのポケットでケータイが震えた。
誰やろう、と思ってそれを開くと。

『あけおめ、ことよろ』
……と、まぁなんとも単純明快な一文。
送り主の名前は家で寝込んどるはずの忍足謙也。

スピードスターはええけど、まだ年明けてへんっちゅうねんっ!
こっちが大変な時にフライングメールなぞ寄越しおって。

……謙也は年明けの部活、ひとりだけランニング10周……、いや20周やな。
財前からの写メでひなの晴れ着姿ただ見しとるんもあるから。

謙也への報復を誓いながら電源ボタンを押して、メール画面から待ち受けに切り替えたところではっとした。
ちゅうか、ひなやってケータイ持ってるやん。
焦っとって今まで文明の利器の存在を失念しとった自分が阿呆らしくなる。
それに気づかせてくれた分、謙也への罰は15周にまけたろ。
心の中で謙也に親指を立てながら、ひなに電話をかけるものの、

「……繋がらへん」

浪速のスピードスター以外にも、フライングメールならぬフライングコールしとるやつがそんなにおるんか!
内心で思わずつっこんで、仕方がないのでメールを打ち始める。

「部長!」

そんな俺に声を掛けてきたんは財前やった。
「あんた、何でみんなんとこおらへんのですか……」
おかげでめっちゃ走り回りましたわ、と悪態を吐く財前は、少し息があがっとった。
「お前こそ、ひなと一緒やないん?」
「一緒やったですけど、ひな先輩連れて人探しは面倒やったんであっちで待っててもろてます」
財前が指した方向は、神社の裏手側。
確か少し休めるようなスペースがあった気ぃする。
「あの人、ずっと部長とはぐれたことばっか気にしてましたんで、早よ行ったって下さい」
「おおきに、」
「部長!」
指し示された方角へ足を向けた瞬間、財前が俺を呼び止めた。
「なん?」
「ひな先輩、大事にしたって下さいよ」
振り返った俺に向けられた財前の顔が、何処となく切なげで、否が応にも気づいてしまった。
こいつもひなのことが好きなんやって。
否、財前がひなのこと好きやったんは知っとった。
けど、俺たちが付き合うようになってからはそんな素振りも見せんくなったから、とっくに諦めてると思うてたのに。
どう返してええのかわからず言葉に詰まる俺に、財前は不敵な笑みを向ける。

「もし部長があの人泣かしたりしたら、すぐに奪ってやりますんで」
それが嫌やったら、ちゃんと幸せにしたって下さいや。

「当たり前や!絶対泣かさんわ!ひなは誰にも渡さんで!」
敵に塩を送るような宣戦布告に、大声で返して、ひなを泣かせんためにもと大急ぎで神社の裏手へ向かった。


***


「ほんま、俺が諦めつくくらい幸せになってや。ひな先輩も……、部長も」
白石の背を見送る財前の呟きは白い息になって大晦日の夜に溶けた。




-7-

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