あけましておめでとう!



「ひな!」

人気の少ない神社の裏手でひとり佇んでいたら、大きな声で名前を呼ばれた。
「蔵ノ介!」
息を切らして駆けてくるその人に、思いっきり抱きつく。

「……ごめんな、独りにしてしもて……」
「ううん、私なら大丈夫だよ……」
ぎゅうっと苦しいくらいに抱きしめてくる蔵ノ介の背をそろそろと撫でながら答えると、少しだけ身体を離されて、しゅんとした顔で「ほんまに?」と訊かれた。
「そりゃあ……少しは寂しかったけど。でも、蔵ノ介が走ってきてくれたから」
だから平気、と答えれば、もう1度強い力で抱きしめられる。

そして耳元で。

「ひな、愛しとる」

熱を帯びた低音が響いた。

「私も、だよ。蔵ノ介」
照れとか嬉しさとかとにかく色んな感情がいっぱいになって、火照る顔を彼に向けると、、私に負けないくらい頬を紅く染めた優しく笑う蔵ノ介。
「ひな。……目、瞑って」
言葉と同時に頬に添えられた手。
ゆっくりと2人の体温が近付いたかと思う間もなく、触れ合う唇。

「あけましておめでと。今年もよろしくな、ひな」
照れたように笑う蔵ノ介が目の前に差し出してくれた時計は、ちょうど12の文字の上で長針と短針が重なっていた。

「こちらこそよろしくね」
新年の始まりを2人で迎えられたことに、自然と笑みが毀れた。

「ほな、そろそろみんなんとこ戻ろか」
ええオチもついたしな、何て言ってる蔵ノ介のコートの袖をそっと引っ張って引き止める。
「……どしたん?」
「あの、ね……」
蔵ノ介に少し屈んでもらえるように手振りで頼んで、彼の耳元でそっと囁く。

「2人で、まわりたいなって思うんだけど……。ダメ?」

蔵ノ介は一瞬、驚いたような顔をしたけれど、すぐに満面の笑みを浮かべて。

「あかんわけないやろ。むしろ、大歓迎や」

私の手に指を絡めて歩き出した。









後日。
(ほな、これが今日の練習メニューな)
(ちょお待て、白石!)
(なんや、謙也)
(俺だけなんでランニング15周やねん!他の奴らは5周なのに!)
(これでもだいぶまけたんやで。文句あんなら20周にしたるけど?)
(はぁっ!?)

(ひなせんぱーい!部長がなんや職権乱用して謙也さんいじめとりますけどー)
(は?何やってんの、蔵ノ介!)
(あ、や、そのこれは……)

((財前のアホ!何ひなに言うてんねん!))
((あの後ずっと2人っきりにしてやったんや、これくらいの意趣返しはせんとな))




-8-

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