白石蔵ノ介の災難



「ねぇねぇ。クリスマスってみんないつも何してるの?」
事の始まりは12月も半ばを迎えたある日、部活が終わった直後にひなが口にしたこの一言。
俺をはじめ、大半の部員の空気が一瞬固まった。

「特に決まったことはなんもしてへんよ」
「せやな。部活あれば部活しとったり」
「なければ各自好きなように過ごしとるわよ」

よし、流石に謙也とユウジ・小春のペアは俺の意思を汲み取ってくれたな。

特に決まったことをしていないっちゅうのは謙也の嘘。
ほんまはクリスマスには誰かんちに集まって鍋パーティーが習慣化しとる。
これまでは、全員が殆ど部活一筋やったから誰も彼女なんておれへんかったし。

せやけど、今年は別。
ひなと付き合い始めてから1ヶ月と少し。
しかも、今までは練習試合やら期末テストやらで中々デートする時間もとれへんかった。
そんな俺ら(ちゅうか主に俺)が待ちに待ってたんがクリスマス。
せっかくやから当日はひなと2人きりで過ごしたい。

散々俺の愚痴やら惚気やらを聞いとる謙也と、恋愛アドバイザーとして校内で名を馳せとる小春、その相方のユウジには俺の思いはばっちり伝わったらしい。
ひながその事実を知ってしまったら、絶対みんなと過ごすって言い出すやろからな……。

「えぇ〜、ケンヤ何言うてるん!クリスマスはみんなで集まってパーティーやるやんか!」

そんな謙也たちの気遣いを全て無に帰したのは、金ちゃんやった。
スポーツ推薦で無事に高等部への進学決まった金ちゃんは、早うテニスやりたいわー言うて俺ら高等部のテニス部に混じるようになっていた。
金ちゃんの必殺技を返せるやつは中等部にはおれへんもんな。
金ちゃんも揃ったベストメンバーで来年の全国優勝を目指しとる俺にとっても、金ちゃんが早いとここっちの練習環境に慣れてくれるんは有難かったから、快く金ちゃんを迎え入れとったんやけど……。

今この瞬間だけ、めっちゃ邪魔やって思ってしまった。

「パーティー?」
「おん!誰かんちにみんなで集まってな、鍋パーティーすんねん!」
「えと、それは毎年?」
「せやで!ま……もが」

「ちゃいますよ。俺が入る前はなかったみたいですし」

金ちゃんの口を片手で塞いで、ひなとの会話に割って入ったのは財前やった。
「ここ最近は偶々みんな特別な用事がなかったんで、集まっとっただけですわ」
ナイスフォロー!
俺は心の中で財前に親指を立てた。
「せやから、ひな先輩はこっちをごっつう睨んでくる部長とデートでもなんでも好きなことしてきて下さいや」
こちらを向いてにやりと片頬を吊り上げる財前。
口パクで「ぜ ん ざ い お ご れ」とかなんとか言うてたけど、一言二言余計なこと言うてたから、それはなしや。
ちゅうか、財前に口だけやなく鼻まで塞がれとるらしい金ちゃんが顔を真っ赤にしてむーむー言うてる方が問題やしな。
「財前、金ちゃん離したり。窒息死してまうわ」
「え、あ、すまん遠山」
財前の手がぱっと離れれば、金ちゃんは「じぬ゛がど思った……」と大げさに深呼吸をする。
「そんなら白石、今年はみんなばらばらで過ごせばよかと?」
「せやな」
「えぇ〜!今年はやらんのん?」
千歳の問いに頷けば、金ちゃんはよほど不満があるらしく、眉を下げて駄々をこねた。
「金太郎はん、白石はんらのことも考えたらな」
銀が宥めすかしても、金ちゃんは口を尖らせるばかり。「……やってワイ、パーティーないとひとりきりなんやもん、クリスマス」
しゅんと項垂れた金ちゃんの言葉に、みんなが一斉に彼をみた。
「なんで?お母さんとかお父さんとかいないの?」
「オトンとオカンは商店街の福引で当たった旅行行く言うて……。金太郎ももうひとりでお留守番できるやんな、って言われてん」
ひなが目線を合わせて問いかければ、金ちゃんは普段の元気な様子からは考えられへん小さな声で答えた。
「ワイ、今年もみんなで遊べる思てたから、ええよって言うてしまってん……」
どんどん萎んでいく金ちゃんの頭を撫でながら、ひなが俺のほうに困ったような視線をよこす。
他の奴らも似たような眼差しをこちらに向けとった。

……あぁ、もう!
「しゃーないなぁ……。やっぱりしよか、鍋パーティー」
なんだかんだで部員一同、金ちゃんには甘いんや。
そういう俺もおんなじで、俺の我儘で金ちゃんにひとりきりのクリスマスを過ごせとは言えへんかった。
「ひなもそれでええ?」
「うん」
答えてくれたひなが心なしは残念そうな顔をしとった。
それが俺の気のせいやなければ、ひなも2人っきりで過ごしたいと思ってくれてたんかな。

そんな淡い期待が生まれた放課後やった。




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