白石蔵ノ介の懊悩



「はぁ〜……」
教室の窓際最後列。
期末テスト明けに行われた席替えで俺の席になったその場所で、冬独特の雲で覆われた空を見上げて、溜息を吐く。
「うぉっ、何やねん白石。めっちゃ重い溜息やな」
俺のまん前の席に座る謙也が、それを聞きとがめて振り返った。
「謙也ぁ、ちょお聞いてくれや〜」
溜息の原因は他でもない、俺とは対角線上にある廊下側最前列に座る俺の彼女、五十鈴川ひな。
ひなが転校してきて早3ヶ月。
俺があのコに惚れてから3ヶ月、めでたく付き合うようになって1ヶ月半。
それなのに。


「キスから先に進まれへんのは何でやと思う?」


ガタタッ!
大げさな音を立てて謙也が椅子から転げ落ちた。
「なっ、珍しく悩んどる思たらおまっ!」
床から俺を見上げてくる謙也の顔は真っ赤で、思わず吹き出しそうになる。
こいつは派手な見た目に反して純情やからなぁ。
やから「なんちゅう破廉恥なことを……」とぼやきながら謙也は自分の椅子に座りなおした。
「そうか?好きなコと1番深い関係になりたい思うんはフツーやろ」
世の中の男で彼女持ちな奴は大抵思うはずや。
ましてや思春期真っ只中の高校生なら尚更。
俺やって「四天の聖書」やら「完璧男」やら色々言われとるけど、それ以前にフツーの男子高校生なわけで。
好きなコと付き合うとれば、キスだってしたいし触れてみたいとも思う。
まぁ最終的な部分はひなの気持ちもあるから、何がなんでもとは思わんけど。

「ちゅうかキスやってハロウィン時に1回しただけやから、それ以前の問題なんやけどな」
1回小春に邪魔されたけど、あの後約束どおりキスしたったら、ひなは顔真っ赤にしとったっけ。
「めっちゃ可愛かったなぁ、あん時のひな」
「白石……、顔きしょい」
ぼそりと呟いた謙也にはとりあえずチョップを喰らわせて、もっかい溜息をついた。


キスはほんまにあのハロウィンが最初で最後。
それ以降一緒に帰っとる途中とかにしようと思っても、ひなはすぐに逃げ出してしまう。
しかもそれだけやない。
他の女子からの視線が怖いから言うて、学校内では必要以上にべたべたすることを禁止されとるし、そのせいか部活が休みで人通りが多い時間帯に帰らなあかんときは手すら繋がせて貰えへん。
俺が護ったる言うてもひなは絶対に首を縦に振らない。
恐らく恥ずかしいからっちゅうのも理由のひとつになってんのやと思う。
俺はそんなこと全く思わへんのやけど、ひなは最初、俺のことを下の名前で呼ぶんも恥ずかしがっとったから。
ひなの気持ちも尊重したいから、仕方ないと思わなくもない。
だが、流石の俺もそろそろ我慢の限界というかなんというか。
下手をすると彼女を襲ってしまいかねない。


「それだけは避けたいんやけどなぁ……」
ひなの泣き顔は見たないし。

俺の懊悩がこめられた溜息は、ST開始のチャイムに掻き消された。




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