お酒は20歳になってから!2



数瞬呆けたあと、とにかく今は蔵ノ介をなんとかしなくちゃと思って、跳ね除けた彼のほうを見ると。
「ちょ、ちょっと何やってんの、蔵ノ介!」
蔵ノ介はトップスのボタンをぷちぷちと外していた。
「ん〜、なんやあついんやもん……」
とろんとした瞳でこちらを見上げてくる蔵ノ介。
よくよく見ればその顔はうっすらと赤く染まっている。

……やっぱり飲んじゃったんだね、シャンパン。

「蔵ノ介、それは酔ってるからだよ。悪いことは言わないから、とにかくもう寝よう」
酔っ払った蔵ノ介に、またさっきみたいなことされたら私の心臓がもたない。
ほら立って、と彼の腕を引けば、だいぶ酔いが回っているらしく、ふらっとよろけた。
危なっかしいので、肩を貸してあげれば後ろからぎゅうと抱きしめられる。
「んー、ひなのにおいやぁ……」
「ひゃ…っ」
首筋に顔を埋めて喋るから、くすぐったくて思わず変な声が漏れてしまう。
そんな私を知ってか知らずか、蔵ノ介は首筋に頬擦りしてくる。
密着した背中に伝わる熱で、私の鼓動が加速する。

酔っ払った蔵ノ介がこんなに危険だなんて初めて知った……!とにかく一刻も早く寝かしつけないと、本当に恥ずかしさで死んでしまいそう。

背中に抱きついたままの蔵ノ介を半ば引きずるようにして何とか自室に辿り着くと、力ずくで私のベッドに押し込んだ。
「朝まで使っていいから、とにかくもう寝て」
「え〜、ヤダ」
肩口まで掛けてやった布団を腰あたりまで撥ね退けて、横向きの体勢になってこちらを見上げてくる蔵ノ介。
眉を下げて駄々をこねる様は金ちゃんみたいでちょっと可愛い。
蔵ノ介でもこんな風になるんだ。
クラスの他の男の子よりもずっと大人びている蔵ノ介が初めてみせる子供っぽい姿に、思わず口元が緩みそうになる。
「ヤダじゃありません。いいから大人しく寝るの!」
その衝動をなんとか押さえ込んで厳しい顔を作って叱れば、蔵ノ介はむすっと口を尖らせる。
「やったら、ひなも一緒に寝てや」
「え」
一瞬動揺した隙を衝かれて蔵ノ介の腕に掴まれる。
バランスを崩すと同時に、布団の中に引きずりこまれた。

「やってこれひなのベッドやろ?一緒に寝んと風邪ひくで?」
「いやいやいや、私お姉ちゃんの部屋使うから!」
いくらなんでもこの状況がよろしくないことくらいはわかって欲しい。
しかし、酔っ払った人間に冷静な判断を求めても無駄で、布団から這い出ようとするも、蔵ノ介にしっかりと腰を抱かれてしまっているから出るに出られない。
「えーやんか、別に。2人のほうがあったかいし」
一緒にあったまろ、なんてちょっと危険な台詞まで囁く始末。
「あ、ひなもあかなった。かわええ〜」
酔っ払っているが故、恥ずかしい言葉を更に恥じらいなく口にする蔵ノ介に、ぎゅうと正面から抱きしめられる。

「ちょっ、」
はだけた胸元に顔を埋める形になってしまって、心臓が止まりそうになる。

肌白っ!ていうか、色っぽい!
しかも何かいい匂いする……じゃなくて!
なんだかまずい方向に傾きかけた自分の思考を強制終了させて、蔵ノ介の胸板を拳で叩く。
「は、離れてってば蔵ノ介!」
「んー、やだ」
しかし、彼は気にすることもなく逆に抱きしめる腕に力を込めてくる。
「やだ、じゃなくて……っ!」
「やってひな、だきごこちめっちゃええもん……」
離したないー、と言って蔵ノ介も私の肩口に顔を埋める。
「ん……っ!」
外ハネの髪が頬に触れて擽ったくて、思わず身動ぎすれば、蔵ノ介の顔が肩から離れる。

「ひな、もしかして感じてるん?」
艶のある声に驚いて見上げると、蔵ノ介は先ほどまでの可愛らしさはどこへやら、再び妖しげな笑みを浮かべていた。

「せやったら、さっきの続き、する?」
「え」
私の返答を待たずに近付いてくる蔵ノ介の顔。
スローモーションの映像を見てるみたいにゆっくりと距離が縮まって、お互いの唇が触れ合った。

キス、2回目……。

付き合うことになったその日に交わして以来してなかったキス。
蔵ノ介の温度が唇から伝わってどきどきする。
初めてしたときよりも長い時間重なり合っていた唇が離されると、名残惜しそうに銀の糸が2人を繋いだ。

「なぁ、ひな。このまま最後までしてもええ?」
「えぇっ!?」

いくら私が恋愛初心者でも、蔵ノ介の言葉の意味くらいは判る。
驚いた声を上げれば、蔵ノ介はしゅんとした。
「ひなは、俺とするの嫌?」
「嫌では、ないけど……」

「やったら、ええやろ?」
ニッと片頬を吊り上げた蔵ノ介が、赤くなって固まるしかできない私の上に覆い被さってくる。
アルコールの所為で温度差がある私と蔵ノ介の間の空気が揺らぐ。
いつもより熱い蔵ノ介の体温が私に密着して、これから何をどうされるのかと思わず固く目を閉じた。

けれど。

「…………………………、蔵ノ介……?」

それ以降、何もしてこない蔵ノ介が逆に心配になって恐る恐る目を開けば、間近にあるのは穏やかな彼の寝顔。
私を腕の中に閉じ込めたまま、深い眠りに落ちてしまったらしく、規則正しい寝息(多分これはホンモノ)が微かに聞こえる。

さっきまでの妖艶な彼とは違い、寝顔は駄々こねてた時みたいに何だか幼い。
「……ズルイよ、蔵ノ介」
可愛らしい寝顔に口を尖らせて一言。

人をドキドキさせるだけさせておいて、自分は寝ちゃうなんて。

彼が言っていたことをされなかったことに安堵する自分とちょっと残念だなんて思う自分もいる。
「もう、蔵ノ介のせいで眠れないよ……」

私の独白は暖かな布団に吸い込まれて消えた。




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