お酒は20歳になってから!



「ひな、余っとるシャンメリー貰てもええ?」
「いいよー」

キッチンの片付けをしてる最中、リビングから飛んできた蔵ノ介の問いかけに、私はさしたる疑問も持たずに返答した。

まさか、これがあんな事態を招くなんて、この時の私には知る由もなかった。


***


「お待たせ……って蔵ノ介?」
宣言通り蔵ノ介が手伝ってくれた分だけ早く終わったパーティーの後片付け。
先にくつろいでいて、と言っておいた蔵ノ介がリビングのソファに横たわっていた。
すぅすぅと寝息を立てている彼を見るのはハロウィンの時以来かもしれない。
「疲れちゃったんだね……」
ハードな部活をこなしてすぐ、私と一緒に買い物に出かけて、重い荷物全部持ってくれたし、準備も片付けも手伝ってくれた彼が疲れていないはずがない。
「……泊まっていく?」
答えが返されるはずがないと思って口にした問いだったのに。

「ええの?」

蔵ノ介の目がぱっと開いた瞬間、彼の額に触れていた腕を引かれ、私は蔵ノ介の上に覆いかぶさるように倒れこんだ。

……またか!

ハロウィンの時も寝たフリに騙されたのに。
自分の学習能力のなさに我ながら呆れてしまう。

「ひな、自分で言うたことのイミ、わかっとる?」
妖艶な笑みを浮かべて言うなり、蔵ノ介はソファの上で寝返りを打つ。
そうすれば、必然的に私と彼の体勢が逆になるわけで。
「俺に襲えって言うとるんと同じやで?」
蛍光灯の逆光を浴びて妖しげな微笑が凄みを増した。
熱を帯びた吐息が顔にかかる。
それさえもいつもより甘く香るのは何故だろう。
艶めかしい手つきで、蔵ノ介の親指が私の唇をなぞる。
ばくばくと激しく動く心臓の音が煩い。

「キス、してもええ?」

普段よりも一層低い声で、蔵ノ介が問いかけるのと同時に、がりがりがりっと机が大きな音を立てて震えた。

「ちょっと待って!」
私は蔵ノ介を跳ね除けて、天の助けと言わんばかりに自分のケータイを手に取った。

「もしもし、」
『あ、ひな?』
通話ボタンを押せば、すっかり酔っているらしい姉の声。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
『今日あんた部活の子たち家に呼ぶって言ってたでしょー?冷蔵庫に入ってるシャンパン、間違えて出さないように言っておかなくちゃと思ってぇ』
「は?」
『私が忘年会に持ってくつもりだったやつ、1本置き忘れちゃったのよー。あんたが昨日買い置きしてたシャンメリーの瓶とよく似てるから、気をつけてねー』

戸惑う私を他所に、まだ忘年会の最中らしい姉は、きゃあきゃあと楽しそうな声で(酔っ払ってるときのお姉ちゃんはいっつもそうだけど)、一方的に言いたいことだけいって電話を切ってしまった。

……まさか。

恐る恐る、蔵ノ介が開けたと思われる瓶を見てみれば、そこにはアルコール10%の文字が。

「お姉ちゃんのばか!」
何でそういう重要なことをもっと早く教えてくれないんだ。
きっと今が今まで忘れてて、他の参加者に飲み物はー?とでも言われて思い出したんだろうけど!
私の悲痛な叫びは通話口の向こうの姉に届くことはなかった。




-10-

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