みんなでクリスマス!



「あー、財前、それワイの肉!」
「うっはい、ほっはもんはひや(訳:うっさい、とったもん勝ちや)」
「ほな俺、こん鱈もらいっと」

鍋パーティーを始めて30分。
それまで蔵ノ介と私しかいなくて程よく静かだった部屋が一気に騒がしくなった。
喧騒の原因はやっぱり金ちゃん。
焼肉はその人の家庭事情とか性格が反映されやすいっていうけど、鍋もそうなのかな。
男兄弟がいる光君や謙也君は争うようにして、鍋の具をつついている。
金ちゃんは確かひとりっ子のはずだけど、そんな2人に負けないように必死に鍋の具を確保しようと奮闘している。
うーん、胃袋ブラックホールは金ちゃんだけかと思ったのに、他にも伏兵がいたなんて。

「ほい、ひな」
半ば呆然と彼らの様子を眺めていた私の目の前にお椀が差し出される。
「割って入らな食いっぱぐれるで?」
と苦笑するのは蔵ノ介。
「ありがと……」
バランスよく全ての具が盛られたお椀を受け取って、お礼を言えばどういたしましての代わりに頭を撫でられた。
「なんなら俺が食べさせたろか?」
はふはふとお椀を吹いていると、蔵ノ介が不意に耳を寄せてそんなことを囁いてくるから、思わずお椀を手放しそうになる。
「け、けけ結構です!」
なんか、今日の蔵ノ介はいつもに増して積極的な気がする……。
恥ずかしすぎて、本当死んでしまいそうなんだけど。

「あらあら、ひなちゃんってば遠慮しちゃってぇ」
そんな私たちの会話に横から混じってきたのはもうひとつの鍋(流石に10人前をひとつの鍋でやるのは無理があった……)をつついていた小春ちゃん。
「せっかくのクリスマスなんやから、蔵リンに思いっきり甘えればええやないの。本人が甘やかしたる言うてるんやし」
羨ましいわぁ、なんて語尾にハートをつける小春ちゃんに、
「小春ぅ、俺があ〜んしたるで」
待ってましたとばかりに絡むユウジ君。
「うっさい、一氏!あんたはお呼びやないわ!」
けれど、やっぱりお決まりのパターンで撃沈した。

「せやで、ひな。小春の言う通りや」
名前を呼ばれると同時に、私の背中に軽い重みが圧し掛かる。
「今日は特別な日なんやから、思いっきし甘えてや」
ニッと悪戯めいた顔をする蔵ノ介を直視して、私の顔が一気に熱くなった。
「む、無理だよ!」
「……なんで」
赤面したまま即答すれば、蔵ノ介が少し不満げな顔をする。
「だ、だって……」
「だって?」
「みんなが、いるから……」
2人きりならともかく、仲が良いとはいえテニス部メンバー全員集まってるこの状態では絶対無理。恥ずかしくてどうかなっちゃいそう。
「ふぅん。2人きりになったら甘えてくれるんや?」
ところが蔵ノ介はその答えに満足したのか、機嫌も直して心底嬉しそうに笑う。
「ほな、ワテらは早めに退散せなあかんわねぇ」
隣でにまにまと微笑む小春ちゃんにまでそんなことを言われてしまい、私の体温は上昇する一方だった。




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