「白石っ、」

ファンと思しき女子の一団に囲まれてたところを助けてくれた白石。
その流れで白石に腕を引かれたまま歩いているんだけど、そのスピードが速すぎるうえ、手首を握る手に込められた力は痛い程強い。

「待ってっ、歩くの速、わっ」

声を張り上げて訴えると、その動きがぴたりと止まって、私は顔面をその広い背中にぶつけてしまった。

「あ、……悪い」

鼻の頭を抑える私を、白石は罰の悪そうな顔で見下ろす。

「や、まぁ、離してくれれば文句はないんだけどさ、」

深刻そうな雰囲気が嫌で、軽い口調で返す私の頭上に白石の影が被さったと思った瞬間。

「!?」

すっぽりと白石の腕の中に収まっていた。

突然の事態に、心臓が跳ね上がる。

「ちょ、しら」
「ごめん……」

逃れようともがく私の頭上で、か細い謝罪の言葉が紡がれる。

「何が?」
「さっきの。俺のせいで朝岡に嫌な思いさせた……」

珍しく沈み込んだ白石の声。

「や、あれは別に白石のせいじゃないでしょ」

白石のファンのコたちが、勝手に難癖つけてきただけで、それを白石のせいだと責めるのはお門違いな気がする。

「やけど、俺が彼女のフリさせてへんかったら、巻き込まれへんかったやろ」
「まぁ、それはそうかもしれないけど、そんなの想定済みだし、気にしないよ、私は」

それよりも寧ろ。

「どーにかして欲しいのはこの状況なんだけど」
「ん?」
「つまり、離してっつってんのっ!」

惚けたように疑問符を返してきた白石の胸を強く突き放すと、丸くなったあいつの目と視線がかち合う。

「ふはっ、」
「なっ、何で笑うのよっ!」
「や、やって、朝岡顔真っ赤……っ!」
「悪かったわねっ!耐性ないんだからしょーがないでしょっ!」

文字通りの大爆笑してくれてる白石に猛抗議するけど、それは逆効果だったみたいで、白石はお腹抱える始末。

「まぁウブなとこもかわええと思うで」
「散々笑われた後に言われても嬉しくないわっ!」

一頻り笑い倒したあと、付け足しのようにフォローを入れる白石。
間髪いれずにむくれた私の頭をぽんぽんと撫でる。

「ていうかさ、よかったの? あんなこと言っちゃって」
「あんなこと?」
「私は白石のものだー、みたいなこと。公言しちゃったらあんたの好きなコにも勘違いされちゃうんじゃない?」
「別に。勘違いされて困るやつなんておらんし」
「そうなの?」
「おったらそもそも今朝岡とこんな関係にはなってへんわ」
「それもそうか」

つまり、白石に好きなコはいない、と。

なんだか安心。

「……って、なんでホッとしてんのっ!?」

不意に浮かんだ自分の思考に思わずツッコミ。

まるで私が白石に惚れてるみたいじゃないか。

隣で頭大丈夫か、などと失礼なことを言ってのける男にじと目を向ける。

ないない。ありえない。

「……なんやねん、ジロジロと」
「べーつに。何でも」
「いや、なんかあるやろ」
「何もないって」
「ある」
「ない」
「ある」
「ない」

不毛な言い争いをしながら、ちょっと楽しいかも、なんて思った自分がいるのに、気づかないフリをした。




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