「ねぇ」

帰り際。
重たい荷物を抱えて、白石との待ち合わせ場所へ向かう途中、数人の女子に行く手を阻まれた。

……とうとう来たかー。

こないだ黒い封筒を靴箱の中に入れられて以来、特に問題なかった学校生活。
あれで終わりだったらありがたかったんだけど、問屋はそう簡単におろしてくれないらしい。

「ちょっと来てくれない?」

言葉の端々に潜む棘が決して否とは言わせない雰囲気を醸し出してる。

「……いいよ」

仕方なく彼女たちが望む答えを返すと、そのうちのひとりに片腕を掴まれ、引きずられるようにして後を追うハメになった。

どこ連れてかれるんだろう。
体育倉庫裏? それとも屋上?
どちらにせよ、碌でもない目に合わされるのはほぼ確定だろう。

これが少女漫画とかだったら、どこかで彼女たちが絶対に逆らえない人が助け船を出してくれるんだろうけど、生憎それは期待できない。

せめて早いトコ終わりますように。

と、内心で祈っていると。

「なぁ。自分らそのコどこ連れてく気ぃなん?」

聞きなれた低音。
だけど、それは聞いたことないくらいの怒気を孕んでいて。
驚いて声のする方へ顔を向けると、口元にだけにこやかな微笑みを貼り付けた白石が、私を含む女子の一団の前に立ちはだかっていた。

「し、白石君……」
「えと、その……」

白石ファンクラブのお嬢さん方が、あからさまに狼狽えてるのを、面白いなーと、少し意地悪なことを考えながら眺めていると。

「悪いけど、」

白石が女の子の間をするりと抜けて。

「朝岡は俺のやから」

私の隣に並んだかと思うと、ファンクラブの子たちに見せつけるかのように、肩を抱かれた。

「ちょ、白石……!」

こんなことされたら、余計に私の立場が悪くなるじゃないか……!

「俺に任しとき」

わたわたする私に、小さく耳打ち。

任しときって言われても……!

反論しようとした矢先、それを制するように肩口に顔を押し付けるように後頭部を抱き寄せられた。

「せやから、」

頭上で響くのは先程よりもドスのきいた低い声。

「こいつになんかしようもんなら自分らもタダじゃすまんと思いや」

気配で背後の女子グループが怯んだのがわかる。

「行くで」

その隙をついて、白石は私の手を引いて歩き出した。

「待ってっ!」

背後から声がかかる。
無視するかな、という私の予想を裏切って、白石は立ち止まった。

「なん?」

厳しさの抜けない声に、制止をかけた女の子がたじろぐ。

「な、なんで」

それでも言葉を繋げる彼女。

「なんで、そのコなのっ!」

白石の威圧感に負けじと張り上げた彼女の言葉に、白石の纏う空気が冷え込む。

「なんで、なぁ……。少なくともそーいうこと簡単に言える自分よりよっぽどええで」

青ざめて言葉に詰まる彼女を一瞥して、今度こそ白石はその場を後にした。




-7-


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