相変わらずそれらしくは見えない私と白石の恋人ごっこ。
それでも、ひと月も経てば、公認の恋人と周りからは見えるらしい。
そのせいだろうか。
いつも通りに登校して下駄箱を開けると。

ひらり。

真っ黒な紙が一枚舞った。

何だろうと拾い上げたそれはご丁寧に血糊のような赤いシールで封をされた手紙。
中身を見なくても大体の内容は、その毒々しい外見から簡単に想像できた。

「あー、やっぱり」

それでも一応封を切ると、案の定ブスだの白石とは釣り合わないだのと言った類いの罵詈雑言が数人分の筆跡で書き殴られていた。

あの白石と不本意ながらも行動を共にせざるを得なかった時点で、いつかこういう目にあうことは覚悟していた。
けれど、実際嫌がらせを受ければ当然いい気分はしない。

とりあえず今のところ上履きとかに手は出されていないけれど、これは自衛が必要かもなー。

深く溜息をついて、心の中でひとりごちた。



***



「……朝岡、その大荷物どないしてん?」

今日はテニス部のOFFの日。
長い終礼を終え、自転車置場で待つ白石のもとに向かうと、案の定手荷物の多さに突っ込まれた。

「何って、教科書や辞書とか」

いつも使ってるリュックに収まらないのは当然のことながら、ロッカーや机の中身以外にも、体育館シューズなんかも持って帰る必要性があるから、リュックに加えて、手提げ袋が2コ。
さながらセール帰りのオバちゃんみたいだ。

「置いてけばええやん」
「それができたらそうしてるよ」
「……なんかあった?」
「いや、まぁ予防?」

白石の瞳が探るようにこちらを伺う。

原因はこいつだけど、今回の件で白石を責めるのは筋違いな気がして、ぼかした答えを返す。
でも、白石は何かを察したのか、急に黙り込んでしまった。

「貸し」
「へ?」
「手に提げてるやつ。自転車のカゴに入るやろ」

思いがけない申し出に、今度は私が面喰らって黙り込む番。

「なんやねん、鳩が豆鉄砲喰らったような顔して」
「いや、白石があまりにも紳士だからちょっとびっくりして」
「……やっぱ自分で持っとれ」
「ごめんっ、ウソウソ!」

慌てて手を振ると、白石は溜息をつきつつも私の腕からするりと荷物をとって、カゴの中に入れてくれる。

「駅までやからな」
「全然いいよ。それだけでもすごく助かる」

ありがとうとお礼を言えば、どーもと返す白石。
こいつに優しくされるのが、何だか違和感があって、ついついその顔をまじまじと見つめてしまう。

「なん?」
「……白石って割と誰にでもこーいうことしちゃう人?」
「は?」

脈絡無視した質問だったからか、白石の目が丸くなる。

「だってさ、私、こんな優しくされるほど白石に好かれてるとは思えないし」

むしろ多分どっちかといえば嫌われてるほうだろう。

「……あのな、よく知ってるやつが困ってたら助けたるやろ、フツー」

素直に疑問を口にすると、呆れたような溜息とともに、さも当然と言わんばかりに答えを返された。

「それに、俺は別に朝岡のこと嫌いやないで?」
「え、」
「やって、嫌いなやつと数ヶ月も一緒にはおれんし」

まぁ、見られたないとこ見られた感はハンパないけど。

嫌いやない、の後に、白石が色々言ってたけど、心臓の音が煩くて、全然聞こえない。

「……白石」
「何?」
「あんた、不用意に好きとか嫌いじゃないとか口にしないほうがいいよ」
「なして?」
「多分あんたに惚れるコ増えるから」

あれだけ公然と好きにならないと喚いていた私でさえ、うっかりドキッとしてしまったんだから。

「……うっかりってなんやねん」

話を聞いてた白石が、半眼を向けてくる。

「うっかりはうっかりだよっ! この天然ヒトタラシっ!」
「俺は妖怪か」
「それに準じるでしょ、その能力」
「単に朝岡が耐性ないだけちゃう?」
「……それ、言外にもてなモテないだろってバカにしてるでしょ」
「普段散々言われとる仕返しや」
「なんだとー」

そんな言い合いをしながら駅へと続く道を歩く。
この時間が嫌いじゃなくなってる自分に気がついた。




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