私と白石が偽の恋人同士になってはや2週間。
最初のうちは周囲の人も私たちの関係を半信半疑でみてたみたいだけど、どうやら本当に付き合ってるらしいとの噂が、最近になって出回りはじめた。

まぁ、そうだよね。
私も白石も一緒にはいるけれど、甘い空気は出してないし、何よりも洒落っ気に乏しい私が白石の隣にいてもそれらしくは映らないのだろう。

「それはそうかもしれんけど」

と、この状況にぶすくれた口調で文句を言うのは、帰りの待ち合わせに遅れてきた白石。
遅刻の理由は、同学年の女子に呼び出されて告白を受けていたから。

「そこは多少らしく振舞う努力はするやろ、フツー」

でないと女除けの意味がない、と宣うのだけど。

「私、最初に言ったよね? 恋人っぽく振舞えないよって」

大体、この関係をはじめたのだって渋々なのだ。
敢えて敵を増やすような努力なんてしたくない。

「それに、女除けなら私なんかより、あんたに告ってきたコの誰かと付き合ったほうのが早いんじゃないの?」

最初から白石に好意を持ってる訳だから、何を頑張らなくてもちゃんと彼女らしく見えると思う。

「それはムリ」
「なんで?」
「……苦手やねん、自分に言い寄ってくる女子」
「はぁっ!?」

贅沢過ぎる言い分に、思わず語調が荒くなる。
私なんて生まれてこの方、彼氏いないどころか、告白されたことだってないのに。

「やってさ、大抵見ず知らずのコなんやで? どこで俺のこと知って、どこを好きになったんやって思わん?」
「いや白石の場合、大抵みんな顔でしょ」

俗に言う一目惚れ。
そう断言すると、白石はますます渋面になる。

「何、顔で好かれんの、嫌なの?」
「……嫌っちゅうか、それって俺やなくてもイケメンやったら誰でもええんちゃうかと思うというか……。結局、俺自身のことは見てくれてへんのやろ、と思ってまうというか……」

珍しく歯切れの悪い白石。
そうやって(おそらく)顔で言い寄ってきた女の子と何かトラブルでもあったんだろうか。

「……まぁ、白石みたいに大勢から告白されてたら嫌にもなるかもね」

断るのだって面倒くさいだろうし。
しかも女の子の方は白石のこと知ってても、本人は相手を知らないのだから、ある意味怖くもあるのか。

「あ、もしかして初めて会ったとき貰ってたプレゼント捨ててたじゃん。あれって名前知らないコたちから貰ったものだけだったりする?」
「……なんでわかったん?」

なんとなく思ったことを口にすると、白石は驚いた顔をこちらに向けた。

「や、白石の話きいてると、知らないコからアプローチされるのが嫌なのかなって」

当たってる?

そう訊ねると白石はまぁ、大体と曖昧な答えを返してきた。

「ていうか、そんなに嫌ならはっきり言えばいいじゃん。知らないコとは付き合えませんって」

そうすれば、白石に好意を持ってるコたちの間にすぐ広まるんじゃないだろうか。

「そう言えたら確かにラクやろな」
「……言えないの?」
「やって言わなさそうやろ、“白石蔵ノ介”っちゅう人間は」
「何それ」

なんで自分をそんな他人みたいに言うのだろう。

「ほら、ついたで朝岡」

浮かんだ疑問は白石の声に掻き消された。




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