『また放課後に』

そう言うて朝岡は自分の教室に入ってった。

思てたよりも平然としとったな。

ホンマは早く朝岡の本心を知りたくて、いつもは送るだけの駅に迎えに行った。
やけどいざ本人を目の前にすると、やっぱり怖くて。
何でもない、ごく普通の会話で誤魔化した。

朝岡もこないだのことなんてなかったみたいやったし。

このまま今のままの関係で。
それでもええ、とさえ思ってしまう。

朝岡の1番近くにいるのは俺で。
朝岡は誰よりも俺のことを知っていて。
だからこそ最も気が休まる、そんな関係。

あえて、あの時のことに触れて気まずくなってまう可能性をつくる必要はないんやないかって。



「お待たせ」
「お疲れ」

部活終わって、自転車置場で待ち合わせ。
相変わらずさっぱりした朝岡の表情。
こないだのことが、夢やないかと思えてくるくらい。

「何、考えてたの?」
「え?」
「部活中。あんまり集中してなかったでしょ」
「……よくわかったな」
「ま、ずっと一緒にいるからね」

最初は、自分の完璧ではない部分をバラされないように、監視するのが目的だった。
なのに、今では。

朝岡を、別の意味で手放したくない。

「ちょ、」
「……あかん?」
「別に……いいけど」

空の右手で朝岡の左手を握る。
怒られるかなと思うたけど、朝岡は顔を朱に染めつつも、拒否はしなかった。

「……ねぇ、」
「なん?」
「白石、まだ熱あるんじゃないの?」
「や、もうフツーに元気やで?」
「でも、こんな風に手繋ぐとか、今までなかったし」
「あー、なんとなく、な」

なんて嘘。
いつもだったら駅に着いた瞬間に終わってしまうこの時間を、少しでも長くしたいから。
朝岡の意識を、俺に向けてて欲しいから。

そんな言葉を口にできるはずもなく。

朝岡の、そう、という素っ気ない相槌のあとは会話が途切れた。



「げっ、」

何とも言えない沈黙が漂う帰り路。
それを終わらせたのは朝岡の呻き声。

「どないした?」
「電車! もう来てる!」

彼女の言葉に顔を前へ向けると、いつも朝岡がのる電車が、今正にホームに入ろうとしているところだった。

「いつもありがと! 今日は行くね!」

パッと手を離して駆け出した朝岡。

行かせたくない。

ふっと湧き上がった感情のままに、もう1度彼女に手を伸ばした。




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