『完治した。今日から登校する』

相も変わらず完結な文面が届いたのは、白石が病欠してから数日経った今朝のこと。

そっか、学校来るんだ。

風邪が治ったことにほっとする反面、顔を合わせたくない気持ちもあって、素直には喜べない。

こないだヘンなこと口走っちゃったからなー。

多分口にしなければ自覚することもなかった自分の想い。
白石には恐らく聞こえてないだろうけど、もしもあの時あの言葉が伝わってたら。
そしてそのことについて問い詰められたら。

…………。
うん、間違いなく爆死する。

ていうか、まずその前に白石本人を目の前にして、今まで通り過ごせるの、私。
あからさまに挙動不審になったら、敏い白石のことだから、絶対何か勘づくだろうし。
そうなったら、例え白石に聞こえてなかったとしても問い詰められる未来に変わりはなく。

どう転んだって死亡確定な現状。
回避するためには極めて平静な自分を保ってないといけないわけで。

うん、心の準備が必要だ。

授業後になるまでは白石のクラスには近寄らないでおこう。
ばったり鉢合わせなんてピンチを招かぬよう、逃げに徹することを決めた矢先。

「おはよう、朝岡」

学校の最寄り駅の改札を抜けてすぐ、颯爽と自転車に乗った白石が現れた。

固。
想定外すぎる展開に一瞬だけど、思考も足も、何もかもが停止した。

「朝岡?」

固まった私の眼前で、不審そうに手を振る白石。
止まった頭をフル回転させて、口をついた言葉は。

「何でいるのっ!?」

明らかに動揺を隠しきれていない一言。

やってしまった……!

「学校行くって連絡したやん」

心臓飛び出しそうなくらい焦る私に対して、白石はあっさりフツーの答えを返してくる。

「や、でも朝練は?」
「病み上がりやから休むって謙也に言っといた」

それもそうか。

と、パニクった流れで納得しそうになって、ふと気づく。

「でも、白石の家からならわざわざ駅前通る必要なくない?」

こないだ白石宅を訪ねたとき、学校からだと駅とは真逆の方面に家があることを知って、いつも遠回りさせてたのかと、少し申し訳なく思ったんだった。

「なんとなく朝岡の顔がみたくなって」
「は?」

さらりと爆弾発言。
あまりにもフツーの口調で言うから一拍おいて顔中に熱が集まる。

「バッカじゃないのっ!?」

ボンッという擬音のかわりに口をついた悪態。
勢い任せでスタスタと、白石を振り切るつもりで歩いても、リーチの差ですぐに隣に並ばれてしまう。

「バカはあかんて、バカは。せめてアホいうてくれん?」
「どっちでも大差ないでしょ、この妖怪天然人タラシ」
「やから、俺は人間やって」
「うっさい、しれっと人を口説くやつは妖怪で充分よ」
「え、やったら早く人間になりたいとか言うたがええの?」
「誰もボケは求めてないっ!」

自転車を引いてる白石に、裏手を返すとナイスツッコミと合の手が。

あれ、さっきまでめちゃくちゃ緊張してたのに。

なんだかんだでいつも通り話せてる?

「なん?」

隣を歩く白石の顔を見上げていると、視線に気づいたのか、こっちを向いた。

「別に、なんでもない」
「さよか」

ハハっと爽やかに笑う白石もいつも通りで。

うん、大丈夫だ。

これなら今までと同じでいられるよね。

「じゃ、また放課後に」
「おん」

いつものように一緒に帰る約束を取り付けて、それぞれの教室に向かった。




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