つ、疲れた……。

病人に軽すぎる食事を摂らせるだけで、こんなに疲労困憊することがあるんだろうか。
床に座り込み、がっくりと肩を落として、ちらりと目をベッドの上に向けると、至極満悦そうな笑みを浮かべている白石。

「あとは薬飲んで寝なさいね」

そんな白石に市販薬の瓶を放り投げて、帰り支度を始めると、じとーっとした視線を感じる。

「なに?」
「……別に」

気のせいか、と広げた荷物をしまう作業に戻ると、すぐに同じような視線。

「だから何?」

気になりすぎて落ち着かないから、ベッドサイドまで歩み寄って訊ねるも、なんでもないの一点張り。

「じゃあ私帰るよ」

布団に丸まる白石に、声だけかけて立ち上がろうとすると、制服の袖を引かれた。

「なに、」

と、振り返った瞬間、白石の驚いたように瞠った目と目が合った。

「あ……、ごめん」

謝って、その手をぱっと放すあたり、白石自身も無意識の行動だったんだろうか。


「しょーがないなぁ」

今日の白石は、本当に甘えん坊だ。
きっと学校じゃみれなかったんだろうな。

役得な感じが嬉しくて、浮かしかけた腰をそのままベッドサイドに下ろす。

「あんたが眠るまで傍にいてあげるよ」

伸ばされてた手を握ると、白石は顔を背けて小さな声で、おおきに、と呟いた。



***



それからどれくらいの時間が経っただろうか。
布団に包まる白石から、すぅっと穏やかな寝息がきこえてきた。

「白石? 寝たの?」

問いかけに対する返事はない。

まぁ、寝てるんだから当たり前か。

布団の隅から少しだけ覗いてる頭をそっと撫でると、サラサラとした手触り。

……こいつ、女の私より髪質いいんだけど。

羨ましいくらいの手触りにハマってしまい、ついつい撫で続けてしまう。

「ん……、」

擽ったかったのか、白石が小さく呻いて寝返りを打つ。

おっと、病人を起こしちゃダメだよね。

名残惜しいけど白石の頭を撫でてた手を離す。
すると、不快感がなくなったのか、こちらに向けられた顔に寄ってた眉間の皺が消えた。
気持ちよさそうに眠るその顔は普段よりもどこか幼くて可愛らしい。

「……そんなに気を張ってなくてもいいのに」

外で活動する部活に入ってるなんて信じられないくらい色白の頬を、ぷにっとつつく。

「……ねぇ白石」


好きだよ。



静まりかえった空間に響いた言葉に、自分でも驚いた。

ずっとそんなはずないって否定してたはずなのに、なんでだろう。
素直すぎる白石を見てしまったせいだろうか。

色々理由を探すも答えは見つからない。
だけど、1度音になった気持ちは自然と受け止められて、伝えたい想いが溢れてくる。

「完璧じゃない、取り繕わない素の白石が、好きだよ」

白石が起きてたらどんな反応するんだろう。

少しは照れたりしてくれるんだろうか。
それとも、他の子みたいにきっぱり断られてしまうのかな。

いずれにせよ、今と同じじゃいられなくなる。

……寝ててくれて良かった。

微動だにしない白石の寝顔を見て、ホッとため息。

「じゃあ私帰るね。ご家族の方が帰ってきたら病院連れてって貰いなよ」

聞こえてないとは思いつつも、それだけは言い残して、白石宅を後にした。




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