「お待たせー……って、何で起きてるの!?」

白石家の台所をお借りして作ったものを持っていくと、さっきよりもぼんやりとした顔の白石が、ベッドの上で壁にもたれるようにして体を起こしていた。

「布団の中入ってないと悪化するでしょ」
「やって、息苦しいんやもん」

とろんとした目と少し子どもじみた口調。

「ほら、ティッシュ」

ボックスティッシュを渡すと、勢いよく鼻をかむ。

「う゛ー……、なおらへん」

文字通り口をへの字にしてぐずる様子は幼稚園児みたい。

熱にうかされて幼児帰りしてんのかな。

「薬飲めばマシになるから。まずはこれ食べなよ」
「なん?」

サイドテーブルに置いた小鉢を不審げに覗き込む白石。

「りんごすりおろしたのにハチミツかけたの」

食べれそう? と訊くと、こっくんと首を縦に振る。

……この男、わざとやってんじゃないでしょうね。

幼い仕草がいちいち悩殺レベルで可愛くて心臓に悪い。

「朝岡ー?」

平常心を取り戻そうと黙想してると、鼻声で呼ばれる。

うん、鼻詰まってて喋りづらいんだってことはよくわかる。
でも、その舌ったらずな感じさえも最早凶器なんだよね。

「なに?」

平常心を装うはずが、それを通り越してぶっきらぼうな対応になってしまう。

ヤバ、感じ悪かったかな。

なんて、内心焦っていたのに。

「あーんして」

目の前の問題児はさらなる攻撃を仕掛けてくる。

これ、もう犯罪だよね?

「甘えないでよっ、それくらい自分で食べれるでしょっ!」
「やって腕ダルいんやもん。せっかく作ってくれたもん、こぼしてまうもん」

しょげた顔するから、うっかり私の方が罪悪感を感じてしまう。

「だぁーっ、もうっ! わかったわよっ! やればいーんでしょ、やればっ!」

赤面する私とは対照的に、至極満悦そうに微笑む白石。
ベッドの脇を叩いて早くしろ、と急かしてくる。

「はい、あー……ん」

あぁ、もう。恥ずかしさで爆発しそう。

絶対顔真っ赤になってるはずの私に対して、ぱくりとスプーンに喰らいついた白石は満面の笑み。

「どう……?」
「んまい」

言うが早いか、もう一度口を大きく開く白石。
私が戸惑っていると。

「全部食べさせて」

と図々しい要求が。

「〜〜っ、」

しょうがない、こうなりゃ毒を食らわば皿までだ。

湧き上がる気恥ずかしさを押し込んで白石の要望に応えた。




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