入り組んだ住宅街。
アプリを頼りになんとか白石の家に辿り着いた。
その旨を伝えると、すぐに返信が。

『鍵開いとる。俺の部屋2階』

「お邪魔しまーす」

ドアノブを引くと白石の言った通り、鍵もかかってなくて、不用心だなと思いながらあがらせてもらう。

「遅い」

小学校の頃の工作だろうか。
KURAというプレートのかかった部屋に入った途端、掠れた声で文句が飛んでくる。

「しょーがないでしょ、この辺のコンビニ探すのに手間取ったんだから」
「コンビニ?」

熱も高いんだろうか。
布団からひょっこり覗く火照った顔に訝しげな表情が浮かぶ。

「スポドリとか色々買って来たんだよ」

飲む? とペットボトルを見せると、白石は小さく頷く。

「……朝岡にしては気がきくやん」

怠そうに身体を起こすのに、悪態だけは相変わらず。

「あのね、私だって風邪引いた時の対処法くらい心得てます」

そのだいぶ失礼な物言いに口を尖らせる。

「はい、少しずつ飲みなよ」

ストローをさした紙コップを手渡すと、オカンみたいやと言われてしまう。

「そういえばご家族の方は?」
「オカンもオトンも仕事。姉貴と妹は学校」
「あんたが風邪だって知ってるの?」
「さぁ?」
「さぁって……」
「いつも両親起きる前に朝練行っとるから。今日もそうやと思うてるかもしれんし、もし風邪やて言うても、急に仕事は休めんやろ」
「さみしくないの?」
「別に。ガキやあるまいし」

と、嘯くくせに白石の表情は暗くて、傍目にも強がりなのがまるわかり。
普段ならきっと微塵もそんなこと感じさせないのだろうけど、風邪のせいかな。

「……なんやねん」

そんな白石の、少し寝癖の立ってる頭をぽんぽんと撫でていると、ものすごい不審なものを見る目を向けられる。

「ん? よい子の白石クンにご褒美です?」
「いらんわ、アホ」

私の手を振り払ってこちらに背を向けて布団に丸まる白石。

前にも似たようなやり取りしたなぁ、なんて思いながら、子供っぽい素振りに笑みがこぼれる。

「そーいや白石、薬は飲んだの?」
「……まだ」

丸まった背中に言葉を掛けると、くぐもった声が返される。

「食事は?」
「あー……、食べてへん」
「食欲は?」
「あんまない」

とは言っても、何か食べないと薬も飲めないしね。

「わかった。ちょっと食べやすいもの作ってくるから、台所、借りるよ」

布団の中に籠ったままの白石に声を掛けて、その部屋をあとにした。




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